大いなる五月の日輪昇りたり
噴水のゆれる川辺の少女たち
波形の皿に鳳梨切り分けて
夏燕メロディーひとつ流れ来る
ほっぺたのまあるき笑みに若葉風
若楓に添ひて歩めば緋毛氈
半分は田植の済みし緑色
初夏の月朱し白球みだれ飛び
守宮居てさしておどろくこともなき
萍が三角形となる水田
草取やどこか古風なJAZZ流し
言葉には出してはならぬ額の花
薔薇館女主人は留守らしき
葛餅や外は葉に降る雨の音
花南天ゆたかに揺れて下校の子
すずしげにものいひたげにみつめられ
蕗を剥く手に沁む匂ひ母近し
雨降らばひらく気配よ沙羅つぼみ
ここだけは大掃除済み冷蔵庫
昼寝覚小鳥の唄は三拍子
島ふたつのみ浮びたり梅雨の海
あぢさゐよ姉の絵葉書巴里より
毒消売ならぬキムチを売る女
泣くことも美しければ沙羅の花
黄の百合は朝の光を浴びて立ち
白玉の浮き上がるまで数かぞふ
トランペットより梅雨の星屑生れたり
梅雨晴間不在者投票封をして
茉莉花にひびき来るあの言葉つき
ぬかるみに踏み出せずして青田道
向日葵のやうに視線を上へ上へ
今朝もまた三十の白沙羅落花
わたしだけのため大皿のさくらんぼ
若かりき夏手袋を編みし頃
絵葉書は夏の旅からスイスから
オリーヴのみどり濃き実よ夏木立
日本画のひまはりややにもの想ひ
蕃茄の小さきを更に切りてをり
間違ひの電話ばかりや冷奴
月蝕の訪れ知るや夏の月
青芝の向ふ可憐に花の咲く
ひそやかなたのしみ芝生での裸足
潮騒も海酸漿の唄も遠し
ミント・ティー冷して河童忌の独り
茉莉花のかぐはしさ海の香も少し
人よりも遅れて青田のかたはらを
テーブルに小さき刺繍の夏帽子
やうやうにつぼみもゆれるさるすべり
一人住みならねど独り遠花火