春
−2001−
春立つ日立ちてあゆむよ二歩三歩
立春の翌日に生れた彼女は、明日が満一歳の誕生日。
2月4日(日)
ライラック色のドレスやJAZZの宵
シンガーのドレスですよ。
わたしの好きな「嘘は罪」も歌ってくれました。
2月5日(月)
冴返る舗道歩めば白き月
この季節の満月はどう詠めばいいのやら。
一時間前の、そのままの‥‥
2月8日(木)
買物は誰のためなの空は春
デジカメ用のスティックとバッテリーと。
あゝ、わたしが使うのではないのに‥‥
今日も空が青い!
わたしだって、何処かへ行きたい。
2月9日(金)
囀りて枝を揺らして鳥も二羽
ひとり暮しの友達の元気さ明るさ。
うらやましいな、と思う。
で、しばらくのひとり暮しをどうする?
ようし、電話で食事の約束を!
2月11日(日)
女三人話あれこれ黄水仙
お昼に集合。
現れるとぱっと明るさを振りまくひと。
手早くお赤飯まで作って来たひと。
たのしかったな、数時間。
黄水仙と外猫チーコが、おしゃべりを聞いていた。
2月12日(月)
恋猫よわたしはせめてマニキュアを
チーコが来ている。
餌はやらないのに。
マンションでも禁止令が出ているし。
でも、彼女はチャーミング。
光る猫柳を撮りたくて、撮れなかった今日は St. Valentine's Day‥‥
雨の日も綺麗なんですって。
いえ、チーコじゃなくて、猫柳。
2月14日(水)
プリムラやクッション五つ並びをり
戸塚刺繍のクッションです。
あたたかい部屋がよりあたたかくなって。
テーブルセンターも、お料理も、シフォンケーキも手作り。
プリムラは、窓の外に咲いていました。
2月15日(木)
弾む声残る寒さも愉しみて
「どうしようかなあ‥‥やくそく‥‥」
「時間厳守?」
「でもないかな」
「じゃ、二時間ずらす!」
「うん!そうする!!!」
だから、好き。‥‥‥‥‥‥‥彼女。
2月16日(金)
人らみな明るきと春のファクシミリ
それから、水が茶色なこと。
旅に出て一週間、ネパールより。
ネパールは決して勧めはしません、とも。
わたし、そんなこと言われなくても行きたくない‥‥
2月17日(土)
暮れなづむ瀬戸内ひくき春の波
もう、十年前のこと。
十年が過ぎたから、この句をここへ書くことも出来るのかもしれない。
書いていると、その時以外の、のんびりした瀬戸の旅も浮んで来るけれど‥‥
2月18日(日)
帰り道ひひなの餅をふたつだけ
桜餅を買うつもりが売り切れて、この土地に因んだ名の雛祭のお菓子を選ぶ。
そうそう、もう直ぐだもの。
四国では四月が桃の節句だったので
未だに三月三日が気持には添わないけれど
今年はちょっと違うような。
2月19日(月)
振り返りふりかへるワルツ春の昼
2月21日(水)
ふらここがどこかできっと揺れてゐる
もう桜が咲いていそうな、そんな暖かさ。
薄いセーターのまま街を歩く、ジャケットは腕に掛けて。
2月22日(木)
白魚に語りかけたきことひとつ
二月。
桜餅と白魚。
母。
それがワンセットになって
年毎に薄れながらも、透明なものの中に浮んでいる。
2月24日(土)
三日やや早めてのけふ雛祭
かんばせの清しきよこの
内裏雛
初節句主役はねむり姫となり
2月25日(日)
沈丁花ふと淑やかな振りをして
まだ暫くは開きそうもない莟がいっぱい。
そんな沈丁花の枝をゆたかに活けてあるから。
香りまで立つような気がして。
わたしなど迄、ちらと鏡を見たり‥‥
いえ、見るように、と言われたのですよ。
2月27日(火)
日曜日なにを着やうや花椿
「どれを着て行こうかしら?」と友達は言う。
明日のクラス会にらしいけれど、あれはただ言ってみただけのこと、決っているに違いない。
無視したわたしが、今雨上りの椿を見て思う、招かれている Home Party ‥‥
3月1日(木)
一瞬は快しとも春疾風
わ!と、冷たくはない風に思う、それは、ほんの一瞬。
その後はもう大変、飛ばされそう。
ビルの並ぶ街角では、息もできないような感じになるんだもの。
桜の枝の揺れなど、見えもしないし、見る気もない‥‥
3月2日(金)
半切の姫だるまわがひなまつり
今日になって、それを掛けました。
これから四月の中旬まで眺めていると思います。
その話は以前どこかに書いています。
3月3日(土)
ふるへるやけふ啓蟄といふものの
昨夜半には雪が舞ったそうな。
陽射しが明るい間はそれほどでもなかったのに
遅く出掛けた街の冷えること‥‥
ほんと、三月とは思えない、ましてや、虫たちが出て来るなんて!
3月5日(月)
ひさびさに手紙書きをり韮芽吹く
書き始めると早いのに、ペンを取るまでがなかなか。
電話すらあまり掛けない掛らない。
メールを書いても、彼には二三行。
幼い時、本を読みたがらない彼に、毎日ノートへ書いたメッセージ。
なぜかそれなら読んでいたから。
3月6日(火)
友の絵の青に春涛寄せ来る
しばらく前に、連俳というシリーズの中で作った句である。
《完成近い友達の絵です。とても綺麗な青を使う人です》
そんなコメントを付けた。
今日、合同展で、
出来上った作品
を見た。
朝茜の輝きが映り、海の青にも紅の色が流れている。
十年ほど前に油絵を始めた彼女の、昨年からの大作である。
3月7日(水)
雲の形すらかろきかな春の雪
ホームへもひらと舞ひ込みあはゆきは
3月9日(金)
不可思議よふた日つづきて春の虹
昨夜、名古屋でのジャズコンサートで、矢頭奈保は“Over The Rainbow”を歌った。
それも、あまり聴いたことのないVerseから。
今日、わたしは年に一度位しか行かない映画館へ。
新聞で見た「小説家を見つけたら」というのが気になって。
途中のどんなシーンだったか、はっきりそれと分らないようなアレンジで、同じ曲が途切れながら流れ‥‥
それから、ラスト。
きれいな訳詞も縦書きで現れて
この曲と“What A Wonderful World”が、メドレーで長く流れていた。
とても素敵な音で!
3月10日(土)
♪♪♪♪♪・♪♪♪♪♪♪♪・♪♪♪♪♪
今日の新聞に
「虹の彼方に」が1位、という記事があった。
20世紀を代表する最高の米国の歌と、7日に発表されたとか。
春の虹は三日つづき。
3月11日(日)
花あせび夕陽を背に誇らしげ
デジカメを持つまでは、この花が庭にあるとは知らなかった。
それほどに、小さな庭にしても西北の隅で目立たない。
植えた覚えはないから
きっと、マンションになる以前の広大な邸宅の庭にあったものが、芽を出して伸びて来たのだろう。
冬に、蕾は薄茶の細い房のようなものだった。
まだ咲き初めたばかりの白い花が、可憐に美しさを見せている。
3月12日(月)
黄と白のフリージアにそっと話し掛け
あなたはこのはなのようにやさしいひとでしたね。
わたしはあなたみたいなおくさんにはなれません。
3月13日(火)
花嫁の母なる友よ梅匂ふ
午後の集りに、先日結婚された娘さんの写真を持って来た人。
自宅から花嫁姿でという、いかにも白無垢にふさわしいお嫁入。
帰りに彼女と「さよなら」と言ったところには
満開の梅が数本。
紅梅よりも白梅が多くて、優しい香が流れていた。
3月16日(金)
春笋や想ひ出微笑ひつつ話し
話もいろいろになったけれど
春の筍料理もいろいろ。
大き目の公魚の天ぷらと一緒に盛られた筍の、仄かな匂い‥‥
3月17日(土)
部屋中をころびもせずに母子草
男の子だって、キッチンは楽しい遊び場所だったはず。
でも、なにかちがうのね。
ママの真似をして、オーブンのスイッチにさわってみる指先の、やさしいこと。
3月18日(日)
三椏の花なにをやら語るごと
初めて見たのだと思う。
すくなくとも、その名を知ったのは今日。
三叉になった4〜5センチの枝先に、白い小さなまろみのある花。
歳時記に依れば黄瑞香とも。
見たのは花瓶に活けられた花。
それも、開き切ってはいない花。
自然の中で咲き薫る花を見たいと思った。
近在の和紙の里にはたくさん咲いているのかしら。
3月19日(月)
春の宵となりの知らぬ街を往く
春の美味Frascatiといふ店の
春の歌流れ右手に紅ワイン
3月20日(火)
三河湾春のさざなみ光る朝
やはり、わたしは、
海
が好き。
3月21日(水)
黄蝶飛んでイヤリング右の耳にない
あらっ!
落とすなんて!
お気に入りの金のなのに。
蝶になって飛んで行った?
ま・さ・か‥‥
3月23日(金)
沈丁のかをる芝生をたのしげに
3月24日(土)
ウクレレを抱えてもみて春半ば
Miwaちゃんと一緒に唄おうねと言ったのは、先日の映画のラストの曲。
でも、それはまだ採譜していないから‥‥
ほんとに久しぶりに奏いてみたのは、やはりちゃんと覚えている「島の歌」。
3月27日(火)
うぐひすの朝の挨拶八時前
枝々を跳びつつ鶯唄ひをり
ほらあそこ匂ひ鳥指差すわたし
数日前には、たしかに早朝の声を聞いた。
聞きながら「あら、うぐいす!」とわたしは言ったのに、どうもそれは夢だったらしくて。
でも、今朝はちゃんと庭に居たのだから、あの朝も鳴いたのね。
三年前の二十四日にも、初音と‥‥
3月28日(水)
ボサノヴァに春愁などは消えてゆく
春の夕焼が輝く夕方。
三槻直子のLIVEを聴きに行く時は、以前にも美しい夕焼の時があったような。
ポルトガル語で歌い上げる“彼女はカリオカ”。
「出るところは出て、細いところは細くて‥‥そんな女性を思い浮かべて
どうぞ、眼を閉じて聴いて下さい」と笑いながらコメントして。
いえいえ、
青く光るドレスの彼女
、素敵でした。
3月29日(木)
可憐なる花のちらちら「富士桜」
三台のピアノのLDで、帰れなくなった喫茶店の入り口に咲いていました。
M・ルグランも弾いていて、あのLDはほしい!
ちいさな嘘も思い付かない今日でした‥‥
4月1日(日)
ゆるやかに色濃くなりて夕ざくら
窓から南西の方に見えたのは、小高い丘を背にした数本の桜。
午後の光の中で、ほゞ満開の桜は白っぽい感じだったのに
夕暮れには桜色が深くなる‥‥
こちらの心理的なもの、でもないよね!
4月3日(火)
花冷えや優しき布に手触れつつ
このスカーフは実は古い着物地。
並幅をそのままに、両端を三つ折り絎けにして。
スカーフにしたのがわたしの二十代、年に何度か使いたくなる。
ほんとうは、一番大切なスカーフなのかもしれない。
エルメスよりも、エトロよりも。
4月4日(水)
はなびらは舞ひ舞ふ桜墜道に
夕方から川添いの桜を見に。
暖くて、それでも春風は吹いていて‥‥散り初めたはなびらが降りかかる‥‥
そして、途中の画廊には桜を描いた大小の作品。
「花精」という小品が好き。
4月6日(金)
春潮や風を車窓へ送りけり
衣浦大橋を渡り、波を見ながらしばらくを走る。
窓を開けて‥‥潮の香がする!
ほんの少しの海だけど。
4月7日(土)
沙羅芽吹きまた湧きあがりたる今朝よ
上の方には朝日を受けて光る葉。
黄緑の色がさわやか。
4月10日(火)
賑やかや稚鮎の皿を前にして
友達と三人での夕食。
女同士の愉しいこと!
テンポが合うのよね、何もかも。
話も食べるスピードも。
4月12日(木)
囀りを終へわが庭に舞ひ降りぬ
夕方の鳥は、さるすべりの、拳のような枝に止っていた。
何の鳥かは知らないが、やや大きめで灰色掛っている。
まだ新芽の出ない枝と同じような色で、空をバックに浮き上がって見える。
絶え間ない、首の小さな動き。
その姿は、思索に耽ってもいるようだし、次に歌うメロディーを考えてもいるようだし‥‥
4月14日(土)
夕ぐれは満天星の花そのために
4月15日(日)
春眠を誘ふ講演午後三時
‥‥ということでした。
4月16日(月)
簪のやうに藤房まだ細く
藤棚のそばを通ったら、淡い紫の花も上の方には見えたけれど
ちらちらと揺れる藤は房というよりは糸のようで。
4月17日(火)
花一輪ほうれん草を茹でる夕
また咲いたバンマツリ。
思いがけずに咲いた一輪が、嬉しい日。
4月19日(木)
春雨や送られ送るファクシミリ
それから電話で打ち合わせ。
?‥‥そうかしら‥‥
彼女と話すと、明るくて弾んでいて、あれは単なるおしゃべり、かな。
おかげで、とっても元気になる。
4月21日(土)
ふるさとの和菓子の甘さ白つつじ
包丁す春の筍やはらかし
4月25日(水)
たんぽぽねアン・ドゥ・トロワ泳ぐ脚
通りすがりの、ドアの開いた部屋では
バーにつかまっての、幼い女の子たちのバレエ・レッスンが見えた。
昼間咲いていた、たんぽぽのような‥‥
4月27日(金)
ひとさしゆびひかるボタンへ夏隣
エレクトーンのプリセット・ボタンを押す、ちっちゃなちっちゃな指。
光るものが好きな子。
4月28日(土)
薔薇の芽も伸びる気配よ雨の中
そんな気がする。
今朝、ちいさな沙羅の莟が、葉の間に幾つも見えたから‥‥
4月29日(日)
想ひ出の中にも藤は揺れてあり
4月30日(月)
レタスの香ヒール・ターンのあとポーズ
ええ、クイズみたいな句です。
レタスを千切りながら、1・2・3、1・2・3‥‥思い出していたのです。
俳句って、独り言のようなものですね。
五月になったから、「レタス」の季語を使ってもみたくて。
5月1日(火)
つばくらめ和綴ぢの句集贈られて
5月3日(木)
春風よ汝がやはらかき頬に吹け
あどけなく「ま・た・ね」それだけ春うらら
5月4日(金)