俳 句 メ モ リ ー
夏潮の明るき真昼船出せし
あれは神戸港。
何度も船に乗ったのに、今思い出したのは小豆島行きの船。
わたしは幾つだったのかしら?
友達の家が小豆島の旅館だったので、誘われて女の子三人で。
OLだった人は、昼休みに送ってくれたっけ。
もうひとり、船が出る間際に走って来て手を振ってくれた人を、思い出している。
8月1日(土)
好ましき立姿あり藍浴衣
昨夜の花火大会には、浴衣を着た若い人も多かった。
彩りの様々なこの数年、特に今年は鮮やかな色が目立つ。
花火が揚っているうちは、花火しか目に入らない。
花火のあとの帰り道に、涼やかな後姿があった。
数人の若い人達の中で、その子の浴衣は古風な藍色の模様だった。
8月2日(日)
海の絵の暑中見舞を書き終へて
十枚ほどのはがきを、なかなか書けないでいた。
宛名とひとことを書添えるだけなのに、とにかく思い付かない。
キーボードでないと字を書けなくなっているみたい‥‥書きたくない、が正確かしら。
早くしないと、こんなに暑いけれども立秋は来てしまう!
8月3日(月)
母性たるを示して猫は夏痩せぬ
ミーは朝、庭で眠っている。
ブラインドを上げると、背伸びをして寄って来る。
昨日の朝のこと、残り物の焼き鳥を串ごと与えたら、咥えて垣根をくぐって行った。
覗いてみたら、下のガレージに、仔猫が二匹いて、その前に置いた。
そして、自分は少し離れて横になり、仔猫が食べるのを見ている。
それを繰り返すこと3回。
今夜もそう、ウインナソーセージのおすそ分けを、そのまま持って行ってしまう。
前にも、ミーの夏痩せを句にしたような気もするけれど、それほどに、我が家の話題となっている。
どんどん痩せているのに、ね、ミー、大丈夫?
8月4日(火)
冷房の効きのよしあし部屋ごとに
上気した顔の人ばかり、室温を見たら30度。
こういう時に初めに言うのはわたし。「ねぇ、何とかならないの?」
エアコンの調子が悪いのは大分前から分っていたのに‥‥
隣の部屋では24度で寒いくらいと言う人も。
窓ガラスに付いている外気温の表示は36度!
わたしは家へ帰りたくなってしまった。
こんな日はクーラーいっぱいに効かして、どこか少し窓を開けておくのが好き。
8月5日(水)
透明な翅を残して蝉消えり
避暑に行く他のものごとも避けて行く
何年目かしら、蓼科へ行くようになって。
5日以上の滞在は去年から。
クーラーがない夏、しかも夜はほんとうに涼しい夏。
着るものでいえば、本当の夏服を着ることが出来る。
ジャケットを手放せないでの、35度の暮しとはちがう。
薄いワンピースで、あるいはTシャツだけで、何処へ行っても安心なのだ。
暑さを避けて、冷え過ぎを避けて、電話を避けて、食事の仕度を避けて、それから‥‥
いろんなものを避けているのに、ノートを持って行く。
インターネットは出来ないと思っているけれど。
8月7日(金)
いづこよりか甘き香の来て秋立つ夜
東名高速道路から中央高速道路と走って、諏訪湖が左手に見えたのは2時間が過ぎた頃。
いつもより早く茅野へ着いた。
やたらと古いテープを持って来たのも良かったのかもしれない。
陽気なコーラスが流れていたら、長い長い恵那トンネルも嫌ではなかったし。
夜、10時過ぎに外を歩いてみる。
植込みの間から実に甘い、今まで知らない匂いが漂って来た。暗くて、咲いているだろう花も見えない。
今日は立秋。
涼しすぎるくらいの所で立秋の日を迎えるのは、素晴しいと思う。
8月8日(土)
新涼や窓を開ければ白樺の
網戸にして眠った夜は、久しぶりの熟睡。
朝は涼しすぎるような感じで目覚め、うす曇り。
でも窓の外の白樺の幹が明るくおはようと言ってくれている。
その向うは落葉松の林‥‥細い路。
しばらくの間の、私の散歩道。
O夫人と息子さん二人も一緒に、ゴルフ場で昼食。
マリーゴールドやペチュニアの色が濃く、咲き乱れている。
夜はY氏の別荘でにぎやかな夕食。
遅くまで話し込んで、窓からの夜風は寒いほど。
8月9日(日)
鶺鴒よせせらぎの音に包まれて
落葉松の中を、プールのそばを通ってわたしは散歩する。
ロッジが並ぶ方向へ行くのには小さな谷川があって
橋の上で見ていると、小鳥が一羽、ぴょんぴょんと石の上を跳び、遊んでいる。
鶺鴒、そう決めてしまう。
水の流れもいろんな形となって、瀬音は上流下流、右左と重なって立体的に響く。
鶺鴒は楽しそう!
8月10日(月)
フェアウェイに残鶯の声響きたり
午後2時半からのハーフ・プレイをする事になって、二人でカートで出る。
第一打がわたしにしては飛んで、いい気分。でもだんだんに‥‥
朝の涼しさはどこへやら、暑くて汗だくとなる。
わたしが相手なので、ハンディ8の人はアイアンだけでどんなスコアが出るかと、そんなことを決めていた。
パー・プレイが4回で、41。パー3のNo9ではワン・オン。
けっこう、ご機嫌の様子だった。
わたしのはカウントしていない。とにかく一緒にラウンドする相手ではないんですね。
でも、夏の季語を使って、わたしには俳句が出来た!
おまけに、もう一つ。
落葉松に丸く切られて秋の空
見上げると、そんな空が見えるグリーンがありました。わたし、パターは上手なんです。
8月11日(火)
胡桃一つ載せる左手ティータイム
このホテルのテラスでお茶を飲むと、胡桃が二つ小皿で出される。
ナッツ・クラッカーで、きれいに割られていて、食べやすい。
初めて来た時は、落葉松と、この胡桃にものすごく感動したっけ。
涼しい木蔭で、ハーブティーを前にして本を読む‥‥しあわせな午後。
ほんの少しずつ、胡桃を食べながら。
8月12日(水)
雨びえの湖畔人魚の壷見つむ
諏訪湖畔にあるルネ・ラリック美術館へ行く。
O夫人は20年以上もこの土地へ来ている方なのに、初めてとのこと。
わたしは4年前と昨年につづいて三度目。
薄暗い展示場に、豊富な作品が素晴しい照明で浮き出ている。
肩を寄せ合った人魚が、二面にある花瓶にしばらく見入っていた。
マーメイドとマーマン、人魚に男女があるということを、思い出してO夫人にも話す。
そして彼女とわたしは、「若者と乙女に見えるわね」と言い合っていた。
筋肉質な胸と、ふくよかな胸のわずかな違いや、表情の優しさとシャープさと、など。
花瓶の両面を飾る二組のカップルは、顔もポーズも微妙に違っていた。
8月13日(木)
蒼穹と白雲八ヶ岳の秋
茅野から、諏訪インターへ出ないで、諏訪南インターへ向う。
民家の並ぶ芹ヶ沢の辺りを抜けると、一面の田畑。
特にとうもろこしの畠が多い。
昨日の豪雨に洗われた緑が美しい。
空も澄み切っている、やわらかく浮ぶ雲も真っ白。
左手に八ヶ岳が、雄大に連なっている。
窓を開けて、風に吹かれながら、その景色を見つづけていた。
8月14日(金)
うす紅のちぎりてみたき林檎の実
ほとんどの林檎畑には、まだ、透きとおるような碧の色の林檎。
松川インターで降りた南信高森の町は、林檎の花に初めて逢ったところ。
ゴルフ場の赤レンガの中庭に植えられた、一本だけの林檎の樹には
わたしの肩の高さに、顔の高さに、いっぱいの可愛い実が色づきかけている。
まだ、酸っぱくて食べられないだろうけれど、手を延べて、採りたい!
ラウンドしないゴルフ場の半日。
読みかけだった「源氏物語の人々」という本を、浮舟まで読んでしまった。
雨もよいになったものの、この涼しさに、そろそろお別れ‥‥
明日から、また暑い日々。
8月15日(土)
残暑見舞わが家へ書いてみたくなり
こたえますね!
なんで、こんなに暑いの?
朝、芝を刈ったり、洗濯をしたり(桃太郎のお話じゃないの!)は、なんとか持ち応えても
キッチンではもう駄目、クーラーのお世話になることにする。
でも、これが効かない。足元は冷えても頭のあたりは、もわーっとしている。
思考力低下‥‥明日からどうしよう。
食欲低下なし‥‥どうして???
8月16日(日)
三文字の墨あざやかに秋扇
白扇を常に持ち歩いている人。
キザとは言わせないほどの、身に付いた扱い方が不思議。
この夏は若い女性にも扇子が流行と、雑誌で見たけれど
携帯電話を持つよりは、素敵かもしれない。
「秋扇」、ほんとうは女の人と合せて使いたかったな。
でも、この暑さの中の白扇は、一瞬、見事に秋を感じさせた。
8月17日(月)
鳳仙花指ではぢきし女の子
お昼に入ったスパゲッティの店のメニューは、「いっぽんみちを あるくぼく」 という絵本の中。
表紙には、林の道に立つ小さな男の子が描かれていた。
虫取りに行くのかな? おばあちゃんちへ行くのかな?
鳳仙花の淡い色の中に坐り、実を見つけて遊んでいる女の子。
それは、むかしの、わたし かもしれない‥‥
8月18日(火)
赤とんぼ群れて漂ふ土手の道
土手の桜の葉陰の道を、散歩していたのではない。
群れをなしたアカトンボは、徐行する車の列に重なって浮んでいた。
車たちの上をすれすれに漂って、楽しんでいるように見えた。
秋が浮んでいる!
もうすぐ、涼しくなるわ!
8月19日(水)
いきなりの朝の挨拶つくつくし
秋の薔薇わが家に幸を運び来し
昨日の午後、クール宅急便が届いた。
大きな箱、送り主はわたしの大切な友達。
四国の松山からの、ミニ薔薇の花束!
電話をしたら、こんな返事。
「知合いの人が薔薇園を始めたの。こんなに暑い時だけれど、2、3日だけでも楽しんでね」
彼女はそんな発想をする、素敵なひと。
わたしは彼女に、話してはいなかったのに‥‥
その夕方、シンガポールに住む長男達が帰って来ることを。
淡いピンクから紅へのグラデーションの薔薇を、一番好きなボヘミアン・グラスに活けた。
8月21日(金)
確かなる実り葡萄の手応へに
鈴虫やヴィデオ五つも借りてくる
久しぶりにビデオでも観ようということになって、さて何処の店へ?
それほど長い間、借りていない。
いちばん観たかったのは、仲間で一昨年、話題になった「スモーク」
ビデオになったと聞いたのも、ずいぶん前。
あるホームページで盛り上ったこともあった。
Yujiさん、Evaさん、やっと、秋の気配がする今夜、観ますね!
8月23日(日)
浪漫派はたれか無花果のコンポート
濃き色の上着選びぬ八月尽
ネービー・ブルーでも、もう透けた織のは着たくない。
ベージュのシャツを着て、茶色のジャケットを持って出掛ける。
こんなに暑くて、やれやれと思いながらも、そうしてしまう。
サンダルだって、濃い色だけれど、そろそろ履くのを止そう。
8月25日(火)
白桃や瀬戸内海の波白し
白桃の一番美味しいのは岡山、という思いがある。
今まで見ていたドラマは、舞台が神戸と四国らしい。
このところ、テレビドラマを見なくなっているが、これは続けて見そうだ。
岡山の桃を、今年も食べなかった。
瀬戸内海を船で往きたい。
8月26日(水)
透明な歌声となり秋の蝉
暑さが増すような、真夏の蝉とは異なる蝉の声。
一匹だけが鳴いていると、いい歌声、と思ったり‥‥
今年ほど、秋の訪れを小刻みに感じたことはない。
このページを毎日書くことで、わたしが得たものは、とても大きい。
あと数日で、一年になる!
8月27日(木)
コスモスの思ひがけない贈物
今朝いただいたメールには
諏訪湖の三つの美術館についての文章があった。
一つはわたしの好きなルネ・ラリック美術館、それから近くの北澤美術館。
グランマ・モーゼスの絵のあるハーモ美術館。
そして、わたしの大好きな花の写真が、一緒に届いていた。
8月28日(金)
雨の宵秋刀魚の刺身一皿を
薦められるままに、頼んだのが美味しかった。
秋刀魚って、塩焼きがベストと思っていたから、おどろいた。
家では秋刀魚を焼けない、窓のないキッチンでは匂いが残り過ぎる。
七輪を買って、庭で焼こうというのは、話だけになっている。
秋刀魚の刺身ねえ!
考えたこともなかったわ。
8月29日(土)
きちかうの明日咲きさうな白つぼみ
昨夜から、うちで雨宿りをしているミーの二匹の仔猫が
陽も射した昼間、芝生で遊んでいる。
わたしが庭へ降りたら、一匹は素早く隠れてしまう。
雨に打たれた桔梗の枝に、五角形の白い蕾がひとつ。
今にもぱっと開きそうなのを見つけた。
咲いた花は寂しそうな風情で、あまり好きではないけれど
ふくらんだ蕾には凛々しさすら!
8月30日(日)
秋虹のごとくに立ちてココ・シャネル
今までビデオで「ココ・シャネル」を観ていた。
自立を目指しつづけた女性。
プロローグとフィナーレでのココは
螺旋階段の途中に立って、作品を着たモデル達をステージへと送り出している‥‥
指に煙草を挟み、黒のドレスに長い真珠のネックレスをした彼女は
華やかさ、哀しみ、強さ、恋、別離、成功、歓び、多彩な色をにじませて
秋の虹のように見えた。
8月31日(月)
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