Autumn
−2000−
枝先に白き花咲く今朝の秋
立秋。
そういえば、朝日が部屋の中まで射すようになって来た。
秋に入ってから、ゆっくりと咲く庭のさるすべりも、今年はもう白い花を見せている。
「ね、私も、夏の庭のページに載せてくださいな!」そんな声が聞えるような。
8/7
(MON)
爽涼を想はす声や受付嬢
広いロビーで待っていた。
吹き抜けになった天井も高く、少し暗い光の、床も濃いグレーの、良く冷房の効いたロビー。
受付の女性一人と、少し離れてガードマンらしき人。
暫く居ると肌寒くなり、上着を羽織る。
あの子、半袖でずっと座っていて寒くないのかしら。
そんな、外の暑さや騒々しさとは、隔絶されたような場所だったから
可愛く話し掛けて来た彼女の声が、秋の爽やかさを思わせた。
8/9
(TUE)
蜩の鳴くころ電話で話すこと
8/10
(THU)
秋水の流るる音や外は闇
蓼科にて。
8/11
(FRI)
秋の薔薇ルネ・ラリックのレリーフの
オルゴール館にしばし割胡桃
新涼や父よりも飛ぶ第一打
8/12
(SAT)
高原の風コスモスの色深め
3才くらいの坊やが、白樺の木のそばから呼んでいる。
「ジィジー!」
そのジィジーなる人は、白い椅子に掛けた、白髪の紳士。
女の子が走って来る。8才かな。
カメラを持って歩いている私の近くで立ち止まって、ひとりごと。
「見事に咲いているわ!このアザミ!」
‥‥見事に、ねえ‥‥
白樺の樹に秋風の旋律が
8/13
(SUN)
秋の虹逢ふときもまた離るときも
朝の、二時間の逢瀬!
一年と一日前と同じように、彼女は登場した。
・・・・・・・
草の花旧知のごとき初対面
高原の空気が涼しい朝の7時、白っぽい車が、落葉松並木の坂道を降りて来る。
助手席に乗ったひとと、わたしは同時に手を上げていた。
それが、KAYOさんとの初めての出会い。
-1999/8/13-
・・・・・・・
秋の虹は儚く哀愁があるという。
そんなことはありません!
澄んだ空に現れて、とても鮮明な明るさです。
8/14
(MON)
過ぎし日へそして未来へ赤とんぼ
赤とんぼの飛んでいるホームページへ。
長い間 おやすみ だったけれど、美しい赤とんぼがひとつ!
久しぶりに書込んで、それからメールして‥‥
彼女からの返事には、こうありました。
「いま、あなたへのブラウスを作っているんですよ」
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
‥‥赤とんぼです♪
しばらくして届けられたブラウスは、とても着やすくて。
やさしい小花模様も嬉しいものでした。
デジカメで撮ったその布から壁紙を作って下さったのも、ネットのお友達。
2001年までTOP
に使っていました。
8/18
(FRI)
虫の音のかすかに歌集贈らるる
急に涼しさを覚える今夜、窓を閉めているのに虫の声がするような。
開けてみれば、どこかで鳴いている!
ほの白く揺れているさるすべりが、涼しさを増す。
夕方、ポストに入っていた歌集は、父を通して知った方から。
表紙も、数カ所の挿し絵も、ご自分で描かれた優しい花。
歌集の題は「花暦」と美しい。
この一首があった。
老いましし師を乗せし機は冬雲に消ゆ呼び戻すすべもなくして 和子
それは、わたしが父を松山から連れて飛び立った日のこと。
そう言われても、それこそ、わたしには、他にすべがなかった。
もう一首。
フランスの旗なびかせし船往きぬ国境ありとふレマン湖上に 和子
だれかさんは、今、7月のスイスの旅をスライドを添えて話す準備をしている。
ニオンから15分ほどで渡れるフランス領の町イヴォアは、古い町並で、花が美しい所のようだ。
その方がレマン湖を訪れたのは、もう随分前のことらしいけれど
わたしには歌の中の、その船が見えるような気がする。
8/19
(SAT)
爽やかなカード集ひに誘はれ
ブルーの花のカード!
素敵なお誘い!
8/22
(TUE)
嬉しきはつくつくぼふし午後四時の
あら!
あれは‥‥
そうでした!鳴き始めました!
それも上手に、そう、高音で。
テノールではなく、ボーイソプラノです。
8/24
(THU)
葡萄掌に退院近き友のこと
8/25
(FRI)
秋茄子と決めてひとりの夕餉には
水遣りをしていたら、昨日は蕾だった百合が咲いている。
庭の隅っこで一輪だけ、細い茎にやさしい白い花。
砥部焼の角い花瓶に挿してある。
だれかさん、あまり好きじゃないんです、茄子。
8/28
(MON)
蔦かづら窓にうれしき雨音の
慈雨、そんな言葉をわたしは書いたことがない。
今年のこの暑さつづきの中では、心からそう思う。
大地を、草木を潤してほしいと。
そして人の心も身体も休めてほしい。
8/30
(WED)
虫の音も力強きよ雨そそぐ
あの‥‥
おわかりにならないでしょうけれど‥‥
新しいパソコンからなのです。
そして、自分でホームページを書き始めて、ちょうど三年が過ぎました。
8/31
(THU)
椿の実ふれさせてみむをさなごに
三年前の今日の句は山茶花の実だった。
同じ時期だから、同じような庭の様子。
椿の実が、やはりおどろく程に大きい緑色で。
9/1
(FRI)
退院の友の不如意や栗かの子
「元気よ」と言いながら、買い物も料理も足を庇いながらでは‥‥
でも良かった!思いがけない車を降りたとたんの骨折事故からの退院だから。
彼女と一緒にお茶にしたいな、そう思いながら
ひとりで食べている小布施の栗きんとん。
温かい焙じ茶が合う午後。
9/2
(SAT)
弦月を見上ぐる白き猫三匹
ほんとうに居たのです。
多分、自由な猫の親子。
もう、充分に育っている子猫の三匹が、三匹共に真っ白でした。
夕方に行ったお店の駐車場で、月を見上げたのは実はわたし。
三日月かと思いましたけれど、今夜は四日の月だそうですね。
きっと、今頃はあの猫たち、お月さまを見ています。
9/3
(SUN)
「秋風と紅茶」そんな曲なかったね
こんなのんきな句を書きながら、ふとメール・チェックをしてみたら
帰ってきました、7416キロ。
そして
すべては
もう
すでに
夢の中。
今日、日本で、つい、逆走してしまいました。
体がまだアメリカです。
みやげ話を聞いてください。
父と息子の大陸横断。
とびきりの夏だったのね!
9/4
(MON)
鈴虫は選挙演説のBGM
9/5
(TUE)
風の中菊枕にて眠りたし
そんな風雅なことを夢見させてくれる、歳時記。
枕の中身は何ですか?
プラスチックのビーズだったり、ウレタンだったり‥‥
パンヤもこの頃メジャーではないような。
蕎麦殻とかの方、あります?
9/6
(WED)
秋袷ならねどスーツ纏ひをり
20才の頃、自分で縫った紅いブレザー・コート。
33才の厄除けに、これがいいわと、おばあちゃまに買ってもらった真っ赤なニット・スーツ。
その後、一着だけあった赤系統は、お気に入りだったワインカラーに黒い小さなドットのスーツ。
買い物の途中で、ふと立ち寄ったなじみのブティック。
深い臙脂色のスーツが着てみると、ぴったり!
さて、どうしましょう。
似合ったのよね‥‥
9/7
(THU)
窓ガラス光る向ふは竹の春
大きな窓は気分も明るくなる。
そのまた向こうには、見えないけれど、大きな川が流れているのを知っているから
緑がよけいに爽やか。
9/8
(FRI)
秋刀魚秋刀魚大陸横断話など
字余りの上五、中七。
美味しい秋刀魚を頂きながら、いろんな話を聞きました。
カリフォルニアのカーメルからボストンまでの長い長い道程です。
それに、秋刀魚の塩焼きだって、お皿から左右にはみ出てましたもの。
9/9
(SAT)
林檎の香ミシェル・ルグラン流れたり
1984年演奏のLD。
「シェルブールの雨傘」で始まり、歌も入った「シェルブールの雨傘」で終った。
お気に入りのお店での一時間が今日の素敵な時、かな。
選挙結果?
知らないわ、そんなの。
9/10
(SUN)
秋の雨チーズいくつか求め来し
9/11
(MON)
名月よ耀きすぎる今宵には
9/12
(TUE)
庭石を踏むもいさよふ月明り
広い日本庭園のある料亭で観月会。
食事の後はお茶席にも。
でも、なによりも久しぶりの女同士のおしゃべりが楽しくて。
9/13
(WED)
立待の月には紅緒の下駄が良き
9/14
(THU)
やはらかき頬白桃のそれよりも
9/15
(FRI)
甘藷煮るつまるところはわれのため
わたしが薩摩芋を煮る時は、いつもそうだったような。
せっせと栗を剥いて煮ていたのも、そう。
男の子はそんなのあまり好きではないんだし‥‥
彼らがよろこんだお藷の料理は?
そうだわ、大学芋!
9/16
(SAT)
隣より包丁の音秋の雲
今夜、我が家は到来物の柿の葉鮨。
夕方、涼しくなったから窓を開けていると、少し下になる家から気持のいい包丁の音が聞こえてくる‥‥
あのお家の献立は何かしら?
9/17
(SUN)
今宵こそと集く虫の音わが庭に
庭中がステージで、とっても美しいコーラス!
そういえば、夕方窓を開けたまま庭へ出たら、わたしと入れ替りに赤とんぼが部屋の中へ。
キッチンで遊んで出て行きそうもない。
しばらくして壁に止ったのを、そうっと捕まえた。
何年、いえ、何十年ぶりかしら、赤とんぼの羽を持ったの!
指に触れる細い足!
そして、ヴィヴィッドな朱い色!
ええ、もちろん空へ飛んで行きましたよ。
9/18
(MON)
子規の忌に城山ひょいと浮びたり
9/19
(TUE)
蟋蟀があそぼと来てるあしもとに
なんやそれ、って声が聞こえそう‥‥KAYOさんね!
だって、ほんとなんですもの、ほらここに。
もっとシックな句を用意してたのに。小学生のよう?
ま、そんなもんだわ、わたし。
耳に入らんよう気い付けます。KAYOさんとこ、とおいし。
9/20
(WED)
メキシコへ行くと言ふひと万年青の実
「来月ね!まだひと月あるもの」
そう彼女は笑う。
「あのねえ」と言っても。
「杖突けばいいんだって、お医者さま」
足首を折って、やっと退院出来て、なのに。
去年はバンクーバー、一昨年は何処だっけ、アトランタ。
その前くらいにはケープタウン。
だけどねえ。
考えられない、わたし‥‥
9/21
(THU)
秋の芽に満天星すこしかがやけり
9/22
(FRI)
子らの声かはゆきものよ秋祭
「わっしょい!わっしょい!」
小雨の中、子供神輿を担ぐ声がする。
ガランガランと大きな鈴の音も響いてくる。
近くの天満宮の秋祭の朝。
9/23
(SAT)
葡萄甘し信州のこと話しつつ
南信州から送っていただいた巨峰。
今年はことさらに美味しい。
あの町には、カンツォーネの上手な、たのしい方が‥‥
9/24
(SUN)
稲刈機大口開けて進み行き
黄金色の稲が、そうして刈り取られている。
黄金色とオレンジ色、美しくて美しくない。
鎌を片手に‥‥そんな稲刈りを見たいな、そんな句を作りたいな、と。
9/25
(MON)
白き花朝日に揺れて秋うらら
9/26
(TUE)
南瓜煮よかそれとも止そか迷ふ宵
美味しそうなかぼちゃが一個、キッチンにあります。
数日前にもそうでしたけれどね、大きいから迷うんです。
誰か、半分いりません?
9/27
(WED)
串刺の鰍炙るは祖母の手か
歳時記に鰍。
あの小魚の味を思う。
もう、十年くらいは食べてないなと。
火鉢の網で、三匹ほど刺してある串をあぶる手が浮ぶ。
母の倍以上も生きた祖母が居た町の、鰍があったとしても、私はガスコンロなんだから‥‥
そろそろ、食欲の秋?
9/28
(THU)
右に曲る石垣白き萩の揺れ
マンションを上の道から出ると、坂になっていて高い石垣の家がある。
枝垂れての白萩に、いつも目が行く。
私の庭のさるすべりも、まだ花が咲いているけれど、そろそろ色のある花を見たくなってもいる。
9/29
(FRI)
茜草染織展の案内来し
9/30
(SAT)
下手から上手へ秋の揚羽蝶
その舞台はわたしの庭。
正面に山茶花数本とと紫陽花。
満天星の横から現れて、さるすべりの前でくるりと廻ると
赤芽樫に沿って舞い上り、美しい袂は向こうへ消えてしまった。
10/3
(TUE)
ふとふれて稲穂おもはぬおもさかな
明るい空だから、矢作川まで歩いてみた。
片側は実った稲田。
ほんの二十五分の散歩。
10/4
(WED)
お帰りと仄かほのかな金木犀
家の階段が見えたところで、漂って来た花の香。
夕方にはまだ間がある時間に、やさしいお出迎え。
今年初めての金木犀の匂い。
お隣の庭を眺めても、まだその花は蕾ばかりのようなのに。
数日後には、わたしの庭にもこの香が、きっと!
10/5
(THU)
木犀の妖精がくる夕まぐれ
10/7
(SAT)
金木犀金のペンダントして写す
二日の間で、
金木犀の花
は満開に。
「わたしを写すのなら、今よ!」と言っている。
夕方、出掛ける支度をしながら、カメラを持って庭へ。
その香は、雨の後だから程よくて。
10/9
(MON)
石段は数段和尚松手入れ
家康公建立の寺院。
大きなお寺ですけれど山門の手前の石段は、三段?五段?
形のいい松。
夕方の細い道で、あら、和尚さんだわ!と、そんな感じなんです。
10/10
(TUE)
茹栗や話相手がほしくなる
栗の皮を剥くの得意なんです、わたし。
子供たちが小さい頃は、間に合わなくて、半分に切ってスプーンでということもあったのですが。
自分はあの食べ方はしませんでした。
今日は一人でゆっくりと、です。
とても甘い栗です。
だから、幼い子に食べさせて上げたくなりました。
10/12
(FRI)
パンプキン・パイで消えゆく疲れかな
10/15
(SUN)
結納の並ぶ床の間秋明菊
座敷を出て、玄関に活けてある花に気がついた。
清楚で気品があって、あゝ、こういう時に合う花と思った。
十一月に入ると二つの結婚式。
ひとつは親戚の。
初めのひとつは、あつこちゃんの!
10/16
(MON)
黄の蘭よ慈しまれつつ咲きし花
素敵な贈り物!
わたしがこの花を初めて見たのはどのくらい前のことだろう。
綺麗!と思ったのは、南国からのお土産に、一抱えのデンファレと一緒に頂いた時。
それからずっとこの花が好き。
だって、わたしの好きな黄色だもの‥‥
10/17
(TUE)
CDはフォスター合唱黄葉の木
「ネリー・ブライ」「スワニー河」、なんとなんと懐かしい!
ふと見付けたロジェ・ワグナーのコーラスのCD。
他にもアメリカ民謡などのいろいろが。
「Love Me Tender」じゃないのよね、「Aura Lee」ですよ。
「Beatuful Dreamer」なんて、思わず一緒に大きな声で歌っちゃった♪
そうなんです、さるすべりの葉がもう半分近く黄色になってます。
ね、昨夜のあのカードの「Happy Birthday」も、素敵なアレンジだったでしょ?
10/19
(THU)
葉の中にかくれ金柑の実は青し
ちいさな金柑の木がある。
夏には白い花が咲いていた。
木斛の実が赤くなっているのに気付いてカメラを持って行ったら
その下に低く、丸い緑色の金柑があった!
10/21
(SAT)
秋の雨流紋岩の川に降る
雨で散策はできなかったけれど
雨の中の
石の川底と緑
は美しい。
10/23
(MON)
二度咲きの木犀よわれわらべ抱く
数日前から仄かな匂いに気付いてはいた。
昨年とおなじ、金木犀の花が再び湧き出たように!
10/24
(TUE)
秋野菜煮るとき母といふものに
わすれているこが多い。
自分が母親であることを。
時に、独身願望すらあるから、スープを作っていて、ふっと驚いたり‥‥
10/26
(THU)
ワインカラーの靴を並べて冬支度
黒や茶色の靴はこの頃は夏でも履いている。
でも、ワインカラーはやはり冬のもののような気がする。
いずれにしろ、それほど履かないから、まだきれい。
10/28
(SAT)
山頭火たづね宵寒過しをり
故郷にゆかりのある俳人なのに、今まで興味はなかった。
「いいなあ」と言う人達には、「男の方にはね!放浪もお出来になるから」などと。
ふと気になってのネット検索。
ふるさとの水をのみ水をあび 山頭火
五五五の句の魅力!
10/31
(TUE)
秋時雨眠れるごとき天守閣
11/1
(WED)
佳きことも紅き木の実もひとつあり
あつこちゃんの結婚式。
三河湾を見下ろす、わたしの大好きなホテルで。
記念写真は、ホテルを背景にしての夕方の広い芝生。
笑顔のあつこ!
ピアノを弾くあつこ!
そして、美しい涙のあつこ!
初めて逢った時の、大学へ入ったばかりの彼女は、髪を三つ編みにしていたっけ。
一昨年の春の
卒業コンサートの彼女
を、花嫁姿に重ねて思い出していた。
11/3
(FRI)
蟋蟀のカルテットゐて畦の道
昨日のこと。
その村の文化財に指定された、
大きな柿の木
を見ていたら‥‥
足元で蟋蟀が鳴いている。
草の中で、何匹かが黒い塊となって、一斉に羽を動かして!
11/5
(SUN)