枝先に白き花咲く今朝の秋
爽涼を想はす声や受付嬢
蜩の鳴くころ電話で話すこと
秋水の流るる音や外は闇
秋の薔薇ルネ・ラリックのレリーフの
高原の風コスモスの色深め
秋の虹逢ふときもまた離るときも
過ぎし日へそして未来へ赤とんぼ
虫の音のかすかに歌集贈らるる
爽やかなカード集ひに誘はれ
嬉しきはつくつくぼふし午後四時の
葡萄掌に退院近き友のこと
秋茄子と決めてひとりの夕餉には
蔦かづら窓にうれしき雨音の
虫の音も力強きよ雨そそぐ
椿の実ふれさせてみむをさなごに
退院の友の不如意や栗かの子
弦月を見上ぐる白き猫三匹
「秋風と紅茶」そんな曲なかったね
鈴虫は選挙演説のBGM
風の中菊枕にて眠りたし
秋袷ならねどスーツ纏ひをり
窓ガラス光る向ふは竹の春
秋刀魚秋刀魚大陸横断話など
林檎の香ミシェル・ルグラン流れたり
秋の雨チーズいくつか求め来し
名月よ耀きすぎる今宵には
庭石を踏むもいさよふ月明り
立待の月には紅緒の下駄が良き
やはらかき頬白桃のそれよりも
甘藷煮るつまるところはわれのため
隣より包丁の音秋の雲
今宵こそと集く虫の音わが庭に
子規の忌に城山ひょいと浮びたり
蟋蟀があそぼと来てるあしもとに
メキシコへ行くと言ふひと万年青の実
秋の芽に満天星すこしかがやけり
子らの声かはゆきものよ秋祭
葡萄甘し信州のこと話しつつ
稲刈機大口開けて進み行き
白き花朝日に揺れて秋うらら
南瓜煮よかそれとも止そか迷ふ宵
串刺の鰍炙るは祖母の手か
右に曲る石垣白き萩の揺れ
茜草染織展の案内来し
下手から上手へ秋の揚羽蝶
ふとふれて稲穂おもはぬおもさかな
お帰りと仄かほのかな金木犀
木犀の妖精がくる夕まぐれ
金木犀金のペンダントして写す
石段は数段和尚松手入れ
茹栗や話相手がほしくなる
パンプキン・パイで消えゆく疲れかな
結納の並ぶ床の間秋明菊
黄の蘭よ慈しまれつつ咲きし花
CDはフォスター合唱黄葉の木
葉の中にかくれ金柑の実は青し
秋の雨流紋岩の川に降る
二度咲きの木犀よわれわらべ抱く
秋野菜煮るとき母といふものに
ワインカラーの靴を並べて冬支度
山頭火たづね宵寒過しをり
秋時雨眠れるごとき天守閣
佳きことも紅き木の実もひとつあり
蟋蟀のカルテットゐて畦の道