立冬に開きしはほの紅き花


やさしい花の姿につかれが解かれていくような。

さ、冬になった。






−連俳より−11月7日(火)





冬めけば華やぐものを取り出さむ


11月8日(水)





日常はもどり朝に蕪切る


11月10日(金)





父祖の地に立つと子はいふ冬黄葉


多分、十代に行って以来。
内子のあの白壁の町を訪れたのは初めてだと思う。
わたしの祖父母が住んだ家の、百日紅の木の下に立っていると聞けば、
彼の上に、兄が重なる。
小さな汽車に乗り、あるいはバスにゆられて兄と行った幼いわたしが見える。

11月12日(日)





いつよりかフライパンにて焼く柳葉魚


小型のフライパンにクッキングペーパーを敷いて、
わたしだけだったら、冷凍した柳葉魚の三尾を並べて弱火で。

教えてもらったのは物産展だったかもしれない。

11月14日(火)





冬薔薇さにーさいどすとりーと歩きをり


夕陽に近いけれど、そう、日向を歩いて帰って来た。
途中で寄ったのは街角の大きな花屋さん。

薔薇ではないような優しい白い花に惹かれて買う。
こんなにしなやかな茎なのに、下の方にはちゃんと棘があった。

オレンジ色のカーネーションと活けたら玄関が明るくなる。





11月15日(水)





めぐり会ふこと重なりて十一月


毎年の、かとうえい子のシャンソンにも酔うし、ワインも美味しい。
ボージョレーヌーヴォーの宵、たのしさはその上に増した。
二週間前に初めて知った人とまた会ったから。
その爽やかな彼女を誘った人とも、ここで会うとは思わなかったし‥‥

11月16日(木)





鰤煮ると決めて厨へ向ひたり


どうも、今までに増して料理をしたくないこの頃。
より簡単に簡単にとなってしまう。

今夜は鰤大根と思っていたから、
とは言っても、キッチンへ向かうにはある決意が要る。

いえ、味付けには自信があるんですよ。

11月18日(土)





少女めきながらうれしき千歳飴








11月19日(日)





室咲きに非ず卓上揺るる花


好きなデンファレをいっぱいに活けて、
こころ愉しいこの二日。

おみやげには、ジム・トンプソンのハンカチだけを頼んでいたのに、
思いがけない蘭の函!





以前は、いろんな方から頂いていた南の国からのおみやげ。
十年ぶりくらいかしら、そんな気がする。

昨日の七五三の御祝にも似合ったし、
昨日の出来事の祝花ともなった。

そう、微笑みの邦の蘭を、わたしはある少年へ贈る。


11月20日(月)





ケーキ選る午後のひととき冬帽子


友達との急な待ち合わせ。
お歳暮コーナーに居るという彼女と携帯で話して、ティルームで会うことにした。
モンブランを前にして暫くのおしゃべり。

11月23日(木)





牡蠣鍋や解かれゆくものふたつ三つ


11月25日(土)





どこか魔法のやうな鍋焼饂飩かな


コンビニで買った。
プラスチック容器のまま電子レンジに入れる。
うどんと野菜と花がつおしかなかったのに、
数分でちゃんと汁が湧いて出た!

付いていた天かすを振りかけて七味も。
なんだか物足りなくてゆで卵を足す。

これが、美味しいんですよ!
隠れていた汁は、どうやらゼリー状になって一番下にあったようです。

わたしにとっては、ちょっとした、かるちゃーしょっくでした。

11月29日(水)





るどるふのうぉーみんぐあっぷ冬銀河


12月1日(金)





工場の中行く夕の初しぐれ


ふとしたことから、大きな工場の中へ。
以前に入ったことはあるけれど、何時の頃だったか‥‥
なんにも変っていないような気もすれば、変ってしまったような気もする。
変ったのが正しいことはわかっている。

12月2日(土)





寒気くる恩師の便りもとどきけり


寒くて、しかも風邪ごこちの今日。
なんとなく、なんとなく過ごしたのだが、ポストに入っていた封書の字は!
お兄さんのようだった小学校の先生から。
あたたかさに包まれたような気がした。

12月3日(日)





冬満月モガスタイルで「夜も昼も」


久しぶりのライヴハウス。
なんだか懐かしいような、数人の若い人に会う。
誰かが、あの旗まで持って来ていて‥‥






今夜のシンガーはあかねちゃん、フランネル(?)っぽい帽子が似合って。

12月5日(火)





十二月古き映画の夜となり


12月7日(木)





幾十歳過ぎてのけふの風邪心地


たしかにわたしはこの世に存在した。
不思議なことに、父の大声を聞いた覚えがある。

どこかで読んだことが自分の記憶になってしまっている?
そう考えられもするが、「おおごとだ!」という語調は、父のもの。
そのひと言だけなのだから、わたしが聞いたに違いない。
幼児の記憶は幾つくらいから残るのか、今になって知りたいと思う。

12月8日(金)





三人の話し声聞く風邪の床


めずらしく微熱。
ほとんど一日中をベッドで過ごす。
こんなに眠ったのは久しぶりで、隣のとなりの部屋からの声がなんとはない安心感を。

胃腸風邪が治ったばかりの女の子はすこぶる元気な声で。
ママもどうやらその風邪らしいから遊びに来たようだ。
わたしは普通の風邪だと思う。

「100+100は〜?」
歌うように言っている。
「150だよ」とからかっているのは彼女のオジサン。

夜になって、こんな時間にこんなことしていて、いいのかな。
でも、気分は良くなった。

12月9日(土)





一服の風邪の薬を振りてみし


正邦さんの「酉の市の福」から「風邪薬の一服」にしてしまったとは、無粋なことで。
顆粒だからその音をふと聞いてみたくなる、ささやかな愉しみ。
長引く風邪にいささかいらいらしてもいて。

「もう良くなりかけてますよ」とのドクターの優しい声には慰められたけれど、
明日のお誘いは断らなければと決めていた。

−連俳より−12月11日(月)





さざんかの揺れて零れてあをきとり


12月12日(火)





橇の絵の重も愉しく集ひけり


半年前のイタリア旅行で知り合った七人で、昼食会を。
運ばれた小ぶりの重箱の蓋には、トナカイとサンタクロースが粉砂糖で描いてあった!





和食の店での思いがけない心配りが嬉しい。
会話も、より弾む。

もう何度もお会いしているような、不思議さ。
一緒に旅をするというのはそういうことなのかとも思う。
素敵な方たちと巡り会えたのだとも思う。

12月14日(木)





小走りの緑のコート並木路


グリーンの半ゴートに、黒いパンツ。
あ、美しい、と思った。

モデル?
ええ、知っている人ですよ!

12月16日(土)





槌音のひびく午後なり黄千両


あっという間に、二階建の棟上が終り、
あとの数軒も基礎工事が進んでいる。
わが家の向い側は、目下、建築ラッシュ。

庭の千両の黄色が、二ヶ所できれい。

12月18日(月)





抱き上げてみたきサンタや聖樹下に






ホテルの三階の会場入口には、
ツリーがいっぱい並び、その間にはこんな愛らしいサンタの人形が坐っていた。

「二十年以上もディナーショーをさせていただいております、さだまさしです」
にこやかに話す彼に、
その二十数年前の、来たくて来たくてのファンだったわたしを思い出していた。
あの時、ボーイさんにスープをこぼされて、あわててスカートを洗いに行った。
戻るエレベーターホールで、知っている若い男性に会った。
「だれだっけ?」と思ったら、それがまさしさま!
ひとこと、話した‥‥

今夜は来たくて来たくてのわたしではなかったけれど、
握手をした手はあたたかだった。

そうそう、地震があったことも演奏中で気がつかなかったわたし。

12月19日(火)





クリスマス近しひたすら磨く鍋


なぜだろう‥‥
12月22日(金)





冬の薔薇咲けりと歌ふ燭を手に


讃美歌の246番の歌詞が美しい。
三番までの歌詞から二行ずつ拾った。


  ばらは咲きぬ。
  静かに寒き 冬の夜に。

  イザヤの告げし 小さなばら
  きよきマリアは 母となりぬ。

  香りはたかし 小さなばら、
  きよきひかりは 闇を追いぬ。


今まで知らなかったから、
そして単純なメロディーだけに、こころに響いたのかもしれない。




12月24日(日)





あれこれと為すとは言へず春支度


玄関のクリスマス・ムードの飾りは片付けた。
今年はなにやらにぎやかだった。

迎春バージョンを、どうしよう‥‥

庭だけはいつものように、らしくしてもらったけれど。




12月26日(火)





山茶花に元気をすこし貰ひたり


年末にしてはほんとうに暖かい日の、
伸びやかに開いた紅い花たちは元気いっぱいに見える。

これから寒くなるかもしれない、なるに違いないけれど、
とにかく、私たち、咲くのよね!
と。


12月27日(水)


Autumn