紫陽花よ彫刻のごとく描かれて
灯台をバックにしての紫陽花の絵を見た。
濃い色の、くっきりとシャープな花で、まるで彫刻刀で花弁を彫り上げたような。
こんな紫陽花の絵ははじめて。
そういえば、紫陽花の絵は日本画に多くあるような気がする。
洋画なら、油絵より水彩に合う花。
6月1日(月)
やうやくに梅雨入宣言するテレビ
河鹿鳴く川近く住み少女期を
「河鹿」の季語に、あのきれいな声を思い出した。
まろやかに澄んで透る、河鹿の声。
父と二人きりだった一年半が、透き通るような記憶になっている。
淋しかったのに、大切な季節だった。
純粋に、父と娘の、最後の季節だった。
6月3日(水)
ブルースを流し新じゃがの皮をむく
1930年頃のBluesを、20曲ほど入れたテープをもらった。
1960年代も半ばに生まれた人が、どうして?
そう思ったのだが、聴いていると、不思議にあたたかさがある。
もともと、SPに録音されたものなので、ノイズがまた素朴さを生んでもいる。
バンジョーの音も楽しい。
哀愁のある歌も、祈りの歌も、軽やかな曲も、それぞれにおもしろい。
6月4日(木)
二度だけで焼酎美味しと思ひ込み
焼酎、しょうちゅう ?
という感じでずっと眺めていた。
「いいちこ」なんてのが、キープされて並んでいるのも関係なかった。
お湯割りに梅干を入れたのを、ちょっと飲ませてもらって、「わたしも!」と大声で言ったのは
こともあろうに、Singaporeのお店でだった。
二度目は数日前、晩御飯を食べそびれて、すごく遅くに飛び込んだお鮨屋で
カウンターに坐ったら、焼酎が目に入った。
わたしだけが頼んだら、なんと胡瓜の千切りも入れてくれた。
梅干だけの方がいいな、と思った。
ということは、また何処かで、焼酎のお湯割りをオーダーするんでしょうね。
なんか、川柳じみてます。
6月5日(金)
見上げても姿かくして沙羅の花
俳句のページに載せている、以前の句と同じいきさつで、開花に気が付いた。
それで見上げたのだが、沙羅の木はもう相当に伸びていて、今朝咲いた花もよく見えない。
ガラス窓の向うに白い花があふれ、部屋の中から眺めていた10年ほど前が懐かしい。
中庭の木は、今年は蕾もつけていない。
昨年、いっぱいに咲いたからだろうか。
沙羅の花は小雨の日が特に美しい。やわらかい羽二重のように光る。
そして、つぼみは繭玉のよう。
6月6日(土)
蜜豆や同級会に行く返事
7、8人で行きましょうという誘いが来ていた。
京都で集って、沙羅の大樹で有名な東林院へ、それから琵琶湖畔で泊ろうと。
沙羅って、昨日も書いたように、うちにもあるけれど‥‥
そんなことじゃあないんですよね。
蜜豆食べながら‥‥という雰囲気に戻りましょ、なんですね。
東京からの人がほとんど、四国からも一人。
わたしは近い方だから、ええ、行くわ!
6月7日(日)
夜の客ノックもせずの守宮かな
このマンションには、いろんな虫がいる。
この前は百足虫、今夜は守宮。
「Baliの、スゴイ高いホテルにね、そう、広い大理石の床に、ヤモリがいてね!」と
数年前に、わたしは話すことにしていた。
‥‥何のことはない、ちゃんとうちにもいる‥‥タイルと同じ色のベージュになって!
隣は、家康が建立したお寺で、低い山になっているから
10年も過ぎると、反対側のエントランスにまで、散歩に来るようになったらしい。
6月8日(月)
梔子の色に染まりし糸いろいろ
草木染と機織をされる方のお宅へ伺った。
植込みの間を通って行くと、玄関には香が漂っている。
衣桁には紅藍花で染められた、夕焼けのような着物が掛っていて‥‥
並べて見せてもらった、染上った糸。
臭木(くさぎ)の実からは薄いエメラルド・グリーン、玉葱の皮からの落着いた茶色、ゆすらうめの枝からは薄茶色。
わたしが、魅せられたのは、くちなしの実からの黄色。
その時により、濃淡は様々となるらしく、淡いものから、ブロンドのようなもの
そして深い黄色へと、素晴しいグラデーション。
コンピュータの中の色もステキと思うけれど
日本の、自然の、そして人の手が心が深く係った色の美しさに感動した。
6月9日(火)
威嚇する仔猫の野生草いきれ
昨夜の雨の中、庭で仔猫の鳴声がして、気になってしかたなかった。。
この間、ミーが黒いのを1匹連れていたのは見ていた。
お昼前に、芝生で固まって寝ていたのは、なんと、6匹の仔猫!
いろんな毛並だけれど、ミーほど可愛いのはいない。
ちょっと触ろうとしたら、スゴイ勢いと形相で「フーッ!」という。
掌に載りそうな小さいネコの、自衛の本能はこんなものかと驚いてしまった。
夕方には、ミーが、6匹の仔猫を抱え込むようにして、芝生で横になっている。
ねえ、ミーよ。いくらなんでも、それは困るのよね。
お願いだから、どこかへ引越してちょうだい!
6月10日(水)
夕焼に向ひ走るもお気に入り
「My Favorite Things」 を歌う彼女は素晴しかった!
ラストの曲は知らなかったが、ゴスペルで迫力があった。
二年前とは、ムードが違ったと、そんな気がした。
洗練された、と言えばいいのかな。
晴れて来て、同時に蒸し暑くなった夕方
それでも、夕焼の明るい空が綺麗だった。
6月11日(木)
兜虫手に少年は笑ひけり
そんなシーンが、何回かあった。
少年は、虫が好きだった長男なのかもしれない。
公園の桜の木に大きなカブトムシがいるのを、わたしが見付け、彼がほしがり
父親は車のトランクから、ゴルフのクラブを持ち出して、それを落した。
その時の笑顔。
数年前のこと、タクシーの運転手さんに、同じくらい大きなカブトムシをもらった。
子供服のお店を持っていたので、お子さんに上げてほしいとのことだった。
でも、わたしが上げたのは、同じマンションの、逢うと「コンニチハ!」と言ってくれる坊や。
朝早く、パジャマで、お父さんと蝉を採ろうとしていたのも、見ているし、上げたかった。
引越してしまったその坊やの笑顔も忘れられない。
6月12日(金)
梅雨冷やポストの音も重たくて
いつもぎりぎりの投句となる。
早く作ればいいのに、そうは思っても、このページに書くようには出来ない。
ここに書く中には、投句したいのもあるけれど、どうも、こちらが優先してしまうこの数ヶ月。
15日に届くようにと、投函した白い封筒の落ちる音を聞いていた。
一句だけ、自信作があるんだけれどね!
6月13日(土)
ひとすぢの捩花雨に生まれたり
芝生の中にすっと一本の捩花が!
雨間に見つけた紅色の一筋が、すっきりと美しい。
「私の俳句」に使う画像を見つけるのに、ずいぶん苦心したことを思い出し
カメラを持って出て、何枚か写した。
雨に濡れて、深い色をしているのが、ちゃんと撮れたらいいのに。
実は、まだ庭にいる仔猫も、ついでに写してしまった‥‥
6月14日(日)
食堂に流れる風も梅雨晴間
向いのビル、県の出先機関の立派なビルの食堂へ行ってみた。
セルフサービスで、お安くて、焼豚ラーメンがそこそこ美味しかった。
10階の南側の窓が少しずつ開けてあって、風が気持がいい!
今夜会った人は、「今日の天気はカナダの初夏のようよ」と言っていた。
彼女は『赤毛のアン』の島で育った人。
さくらんぼ一箱提げて唱ひたし
夕方の駅前のくだもの屋に、赤いさくらんぼが並んでいた。
小さな方のパックを買って、袋をぶら提げながら歩く‥‥ハミングでもいいから、と弾む気持。
帰って、あらためて見ると、《やまがた・小さな恋人》と書いてある!
男の子が、さくらんぼを二つ持って、女の子に渡そうとしてる。
ハート・マークも二つ。JA、やるじゃない!
6月16日(火)
白き羽すら重たげに梅雨の蝶
なんとか今日は降らないままで暮れそうです。
風はひんやりとしているのに、湿った空気。
そうそう、一つ足りなくなっていた、わたしのお気に入り、ローゼンタールの白いコーヒーカップね。
あの薄いやさしい磁器を、手に入れてもらえるそうですよ。
6月17日(水)
話また話をよびて蒲の花
鱧料理をメインにという食事に、男性三人は、あっという間に器が空になる。
「ゆっくり戴きましょ」と言っても、こちらも何やらいそがしい。
それでも、話題は世界のあちこちまで飛んで、どんどん広がって行く。
明後日から、アメリカとカナダへ2週間のの人。東京へ1週間の人。そしてもう一人は月末からロンドンへ。
カウンターに活けられた蒲の穂が、《日本が一番ですよ》と言っている!
6月18日(木)
風呂敷がお薦めと言ひ含羞草
明日出発の、今日になってお土産の品は何がいいか、だって!
軽くて、日本的で、と言われても‥‥
不特定多数の方に、なら、風呂敷はどう?
差し上げる時、挨拶は握手でしょう?
でも、《オジギソウ》だから、お辞儀もしてね!
念のため。
《含羞草》の字のようなわたし、ではありませんよ。いささかアツカマシイひとです。
6月19日(金)
水中花どの花も今さう見えて
草稿の挟まれし本父の日よ
本を作った時に、私達の家族にもそれぞれの名を書き、贈ってくれた。
次男へは、「読めるようになったら、読んで下さい」と添書きがしてあった。
これからは「自蔵一本」と朱筆のある、父が何度も読んだであろうものを、わたしの本とする。
数枚の原稿が折りたたまれて挟んであった。
それを挟んだのは、おばあちゃま、かもしれない‥‥
6月21日(日)
向日葵やちょっと不思議なエピソード
昨日立寄った化粧品売場に、おもしろい形の香水の瓶があった。
買ったネイルカラーと口紅を包んでくれた人が、「いかがですか?ダリのデザインなんですよ」と言った。
「ええ、まあね」と帰ろうとしたわたしに、匂いを染み込ませたカードを渡してくれた。
夜おそく、父の書いた古い原稿を広げてみると、何行目かに
《サルバドール・ダリの‥‥》とあった。
推敲で読みづらいそれを、一気に読む気になっていた。
短歌の写生と芸術性についての一文であり、いささか考えさされもした。
カードによれば、香水の名は LE ROY SOLEIL という。
6月22日(月)
葉先より光ふくらみ滴れる
うすものを肩に纏ひてオペラの夜
かうもりや黒きマントは優雅にも
どうも、まだ昨夜の余韻が残っている。
第二幕、夜会の場面の、黒い衣装の紳士達(?)を蝙蝠と見たら
昨秋、秋芳洞での気味悪さも消えてしまう。
「こうもり」の男性たちは少し滑稽で
でも、オーケストラ・ボックスからのワルツのように、楽しく、エレガント。
6月25日(木)
夕顔も似合ふ窓辺の古き町
ままごとの奥の座敷は花茣蓙へ
今の子供たちは、ままごと遊びをするのかしら?
このマンションの小さな女の子が、人形を抱いてはいる。
でも、ままごと遊びは見たことがない。
ポストのところの、タイルの木陰などで、遊びそうなものなのに。
家の中で?それとも、もうそんな遊びはしない?
6月27日(土)
緋鯉先づやがてそれより目立つ白
五年ほど前のことになる。
四国からの帰りに思い付いて、津和野へ行った。
町なかの老舗といわれる宿に泊ったが、いささか予想とは違っていた。
それでも、町を楽しむには、とにかく、鯉の泳ぐ水路に添って歩いて行けばいい。
今、津和野を思うと、やはり多すぎるほどの鯉の流れ。
6月28日(日)
夏痩せの猫道端でしらんぷり
六匹の仔猫を生んで、育てて、ミーは痩せてしまった。
丸一日見なかった今日の夕方、家に帰ると、向うからミーが来る。
「ミー」と呼んでも逃げる。近づくと険しい顔を見せる。
そのくせ、わたしが家に入り窓を開けると、垣根をくぐって走り寄って
「どうしたの!」と言いたくなる。
でも、ミー、可愛い一匹は貰い手があってよかったね。
6月29日(月)
氷河踏みしと言ふとほき夫の声
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