俳 句 メ モ リ ー
色鳥の一羽二羽来て首かしげ
戴いたこの 「ひよどり」 に合わせて。
私の小さな庭にも毎朝小鳥が来る。
秋から冬の間は木の実を啄ばんだり、芝生で遊んだりしている。
私は気まぐれに、ミカンやパン屑を庭に置いたりする‥‥
中に、とても綺麗な小鳥たち。
10月1日(水)
堤には真っ赤なペンキまんじゅしゃげ
ビルの7階から見える川。
向こう岸が橋のたもとから真っ赤になっている。
緑の中に赤が鮮やかに広がって、現代アートのよう。
10月2日(木)
露けしやラ・ヴィ・アン・ローズひびく夜
可愛いという言葉が合うひと。
白いドレスはかろやかで、声と眼差しとしぐさで語りかける‥‥
この十年、彼女はどんどん上手くなる。
シャンソンになぜ? 南アフリカ?
南アフリカのワインが美味しかった。
10月3日(金)
宵の雨木犀の香も沈みゆき
マンションのエントランスの隣の家に金木犀の樹がある。
私の庭にも低い木があるのに、咲く時期が遅い。
夕方帰ってきた時、甘い香りがいつもと違うと感じた。
重いような、湿ったような、でも、落ち着いた気分にさせてくれる‥‥
10月4日(土)
松茸を食べに行こうと来たメール
こんな俳句ははじめて‥‥俳句かな?
いろんなことで話の合うお二人、メールは夫君から。
ええ、行きますとも!
例年、長野県に入ったところへ通っている。
大きな炉端で焼き松茸、山女と五平餅。
一週間あとがたのしみ。
10月5日(日)
赤い羽根回覧版にふわふわと
「町内会費からまとめて収めます。お取りください」
こんなメッセージが付いて、廻って来る赤い羽根。
私も街角では、もう寄付はしないだろうし。
ひとかたまりの紅色のふわふわした羽根が、一瞬あたたかさも生む。
10月6日(月)
新米の案内の名はこひごころ
ふるさと からのDM。
お米には「あきたこまち」 とか 「ひとめぼれ」 とか‥‥
今度は愛媛の「こいごころ」
《毎日、あなたに会いたくて》 とのコピー。
ハイハイ、申し込みましょう!
10月7日(火)
ななかまど大山よりの絵葉書に
クアラルンプールへの旅を楽しみにしていた友人が
例のインドネシアからの煙で断念し、大山へ行った。
暑い邦へ行くよりも、日本の山で秋を見る、 その方がたのしいよ。
そんな雰囲気の便りが届いた。
10月8日(水)
金木犀一枝挿さむ碧き壷
庭の金木犀が咲いた。
花が少いのは、夏の剪定が遅すぎたのかも分からない。
一枝を切り取って、活けるのはあの花瓶! と思う。
近くの蒲郡に楽の窯元があり、数年前、展示場の一隅で見付けた ターコイズ・ブルーの小さな花瓶。
玄関が明るく、あまく薫る。
蜜柑色のカクテルを手に懐旧談
久しぶりに来たバー。
先客二人、私達二人、マスターとの会話がはずむ。
ゴルフ・コンペの話から、海の話、この店で親しくなった仲間のことなど。
10年前によく会ったイギリスの研究者が、またこの街に来ているとも。
近いうちに、皆で集まろうよ。
(蜜柑は冬の季語、少し早いけれど‥‥)
10月10日(金)
枸杞の実に遥か遥かの祖母の顔
テーブルの一輪挿しに、朱い実の付いた小枝が活けてあった。
ミニトマトのようでもっと小さい。黄緑の実も二つ三つ。
隣に居た人が「枸杞だと思うわ」と言った。
この実を乾すと? 中華料理の枸杞粥に入っているのと お・な・じ‥‥
長寿だった祖母は、枸杞茶を飲んでいたっけ。
10月11日(土)
黄葉の仕度はじめし一樹あり
公園の中にお城がある。と書いてしまった。
天守閣を残して、城跡は公園になっている。これが正確かな。
公園の南と西側に秋の川が流れている。
西の細い方の川に近く、大きな銀杏の樹、車の多い国道からもよく見える。
緑が淡くなり、車窓からの一瞬若葉とまがう‥‥もうすぐ黄色くなるための準備よね!
夕月の昇る頃まで今日の宴
午後、2時間走って南信濃路の「トンキラ農園」へ着く。
古い農家の雰囲気の、大きな囲炉裏で、もう山女が串で焼かれている。
6人で1キロの松茸を焼いて、そのあとすき焼きにもして大宴会。
デジタル・ビデオで松茸撮っている人も。 このページの話が出て、ニワカに俳人が生れる。
松茸を裂く手によいしょと声が入り (M)
松茸と烏骨鶏の卵目に泪(O)
読んで下さるみなさま、松茸、松茸と、ゴメンナサイ。
10月13日(月)
よろこびを運ぶ夜長の宝函
昨夜のこと、テレビを見たあと、ふと気になってコンピューターを‥‥
大切なメールが来たような感じ、12時前なのにそう思った。
この春までの一年ほど、大学院生から「すてきな日本語」のメールが来ていた。
そう、彼女は留学生だった。遊びに来ても娘のように親しめて可愛かった。
四月に台湾へ帰った彼女からの、初めてのEメール!!
ホームページ見ましたと。そして「俳句メモリー」が好き、と書いてある。
この箱って宝函かしら?
10月14日(火)
秋水の湧き出づるごときコンチェルト
“ VIENNA PHILHARMONIC WEEK IN JAPAN ” を名古屋で聴く。
「シューマンのピアノ協奏曲 イ短調」初めて聴く曲。
目を閉じていると、フルートの音が高く響いている。
終章のピアノがメロディーを繰り返す度に透明感を増すような‥‥ほとんど目を閉じたまま。
10月15日(水)
実ざくろのルビーちりばめこの小鉢
女三人での食事。運ばれて来る料理の数鉢目に酢の物。
白身の魚に細く切ったいんげん、ざくろが七粒ほど光っている。
ルビーみたい。口に入れたらすっぱいだけ。でも、「秋」がある。
10月16日(木)
花梨の実合掌造りの屋根を背に
仏法僧で知られている蓬莱寺山に近いところには
日本の懐かしい秋があふれていた。
一本の花梨の木に大きな実がいっぱい、今にも落ちて来そうなほど。花梨と記念撮影!
10月17日(金)
コスモスのくれなゐの風やはらかに
コスモスを贈ることにした。 次男の誕生日。 彼が生まれた日に私はこんな短歌を作っている。
コスモスを手に握り来てママにといふ
はじめてこの日兄となりし子
くれなゐと白のコスモスは短くて
広場にて採る児の姿語れり
Cosmosは宇宙のことと言ひてより
優しき花も愛しぬ吾子は
長男のことを詠んだ歌、でも、コスモスは次男の誕生日の花。
10月18日(土)
近くより仔犬の声が秋うらら
久しぶりに家で過す静かな日。
日差しいっぱいの部屋で、一人ぼんやりしている午後に聞こえてきた犬の鳴き声。
朝のうちは、友達との電話やCDの音楽。お昼に来客。
あと、音のない時間が続いていた。
マンションで犬は飼えないから、以前の犬たちを思い出した。
「私の散歩道」のシェルティーは、その、ラリーとチェリーのつもり。
10月19日(日)
柿紅葉この一村を覆ひたり
夕食後、柿を剥きながら数日前の山奥の風景を思い出した。
バスの窓からの眺めも柿紅葉、あるいは柿の実がほんとうに多かったし、美しかった。
あの日にも、この題材は使いたかったのだが、花梨の実を初めて見て、そちらを選んだ。
あらためて、今日の俳句に!
10月20日(月)
障子貼ることはわすれて障子見る
フローリングに改装した八畳の部屋には、和室だった時のまま障子がある。
東と南側に、四角い桟の障子の光が柔らかい。
少し色が付いたかな、そう、二年が過ぎたもの、と思って眺めている‥‥
障子を貼ったこともあるし、貼る楽しさも知っていた。
でも、こんなに大きな障子は、やっぱりプロに頼むのよね。
10月21日(火)
ほととぎす素直に父のなつかしく
秋晴れのつづく毎日に庭の木々の葉も水がほしそう。
暫くぶりに朝の水撒き。
ほととぎすが咲き初めた。
一年だけ父が住んだこの庭。
五年が過ぎて、父が懐かしい。
つよい精神の、豊かな父だったと思う。
むらさきの音が流れる草の実に
ムラサキシキブの実が侘助椿の葉の蔭でちらっと見えた。
小さな紫の実がかたまっていて、枝が揺れると微かな音が聞こえそう‥‥
きっと澄んだ鈴の音、日本の小すゞの音。
昨日、いすゞさんという知人から、自著の出版記念パーティーのご案内をいただいた。
出席のハガキのコメントに「いすずさん」と書いてしまって、それはそのまま出したのだが、「いすゞさん」が素敵!
式部草も、紫式部も、季語にあると思ったのに見当たらない。何故だろう?
10月23日(木)
秋の天翔けて写真のEメール
お昼過ぎに来たメールはいきなり英文でおどろいた。
“Hi this is Atsushi, today my parents arrived here and we had a great dinner.”
に始まる手紙に、大きく写真が付いて来た。ほんとに大きい。
昨日アメリカへと飛び立った友達が、向こうで高校生活を送っている息子さんとニッコリ笑っている。
写したのはご主人。
もう、行っちゃったの!そして、もうEメール!
10月24日(金)
ビルよりの一歩秋冷襲ひ来る
昼間、半袖のシルクTシャツに、軽いジャケットを持って出掛けた。
歩いて暑いし、デパートの中などは送風だけなのか、これまた暑い。
秋らしい服装の人がお気の毒みたい。
義妹と姪に偶然会って、夕食を一緒にした。
「明日から涼しくなるらしいよね」などと話していて、帰途、句のようなことになった。
10月25日(土)
ワックスの掛からぬ林檎手に親し
隔週に届く、化学肥料なし農薬なしの野菜に、林檎が二つ入っていた。
津軽とある、そう大きくはない。紅い。
いいな!と思ったのは、つやが自然なこと。
手に採ってみて嬉しくなる‥‥昔の林檎のよう。
スカートで拭いてかじった記憶が帰って来る。
もちろん、ナイフで皮を剥いていただきました。美味しさも懐かしかった!
10月26日(日)
紅色の花よきことの水引草
庭の片隅にあった水引草を活けてから何日目だろう。
織部の小さな花瓶に一茎だけ、左右に三本の枝が伸びて張りがあり
葉が落ちてしまった今日は、テーブルの上で名のごとく水引のよう。
ちらちらと咲く小さな紅色の花が、なにかいいことを運んで来てくれる!
紅白の水引‥‥
水引草と名付けた人って?
10月27日(月)
秋思なり侘びしきことも歓びも
一日の内でもいろいろな出来事に会い、思いもゆれうごく。
うれしいな、いやだな、うっとうしいな、きれいだな‥‥
その、一つを取り上げてこのページを書いている。
「秋思」という季語はずっと気になる言葉だったが、句にはならなかった。
「春愁」の方はいくつか作っている。
「秋思」には静寂とか、諦観とかそういうニュアンスを感じていたから、手強かった。
もっと素敵な俳句にしたいのだけれど。
10月28日(火)
大きくて十六に切る梨の味
大皿に梨を出してもらった。「これで一つの梨ですよ」と。
1/16でも大きい一切れ、名前は知らないが、あの大きい梨‥‥
去年、貰ったことを思い出した。
今日は六人で食べて、丁度いいくらいだったが、二、三人では食べきれない大きさの梨。
甘くて美味しいが、我が家には大き過ぎる。何時からあるのだろう。
10月29日(水)
城白く浮き乾杯す秋の宵
目線の高さに、ライトアップされた天守閣と向かい合ったレストラン。
先ほどの夕焼けも、入日も、舞台が変ってしまった。
昼間よりも、端正に見える白いお城に乾杯! グラスにはカンパリ・ソーダ。
白と赤と、秋の夜の漆黒‥‥
10月30日(木)
のら猫はすこし馴れきて冬隣
まだ陽の当たる内に帰宅したら、窓の外の縁側(?)に猫が坐っている。
夏に生まれたらしい野良猫の二匹の仔の可愛いほう。
ガラスごしに見ても飛んで逃げていたのに、今日は戸を開けてもじっとしている。
「ミー」と声をかけたら、「ニャーン」と言った!
二三度、じゃこなどを置いてみたので、なついたのか。
寒くなって来て、甘えようと思ってるのかな。
私は飼いたいくらいだけれど、そうじゃない人も居るのよね。
ときどき仲良くしましょ。
10月31日(金)
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