俳 句 メ モ リ ー
留袖の図柄に欲しき紅葉山
この句は今日のものではない。何年か前のもの。
どうしても、11月の初めは紅葉の句にしたかったので、これを選んだ。
自分では気に入っていたし、句誌で採られたものでもある。
その頃は、何となく留袖を探していた。別に急いでいたわけではない。
後に実際に選んだのは雪吊の模様だった。
加賀友禅の着物に出会った時、そんな句を作ったりした。
いつか、私は紅葉の山の裾模様、そんな色留袖を探してみたい。
先ほどBS俳句大会を見ていて、主宰の顔もあり、この句を思い出したのかもしれない。
11月1日(土)
長電話終へて俄かに火の恋し
夕方、友達との電話、ちょっとした打ち合わせが長くなる、いつものパターン。
「今朝寒かったね」「だって、今朝は5度だったのよ。うちは炬燵も出したわ」
そんな話で終ったせいか、話していた間はそれほどでもなかったのに急に寒くなった。
電気ストーヴのスイッチを入れ、それでも寒くてエアコンも‥‥
傍で誰かが、あきれている。
この句をグレード・アップしたいので、おねがい!
《私は一人で暮していて、恋人と長電話をしていた》 という状況を想像して下さいね!
11月2日(日)
友情も庭の料理も身にしみて
夏からの計画がそれぞれの都合で延びて、今夜になってしまった。
この数年、何処かの庭で何回か続いている鍋料理のパーティー。
「肉骨茶」「Bak-Kut-Teh」「バクテー」という、マレーシアでとりこになったもの。
マレーシアの華僑の料理らしく、独特のスパイスを貰って来たのは私達。
実は、大量のスパイスとニンニクとで室内で食べると翌日、翌々日まで匂いが残るのだ。
一番若い仲間の庭での、ブルゾンなど羽織ってのパーティーは、焚き火もあるしそんなに寒くはない。
美味しいし、楽しいし、忙しいとばかり言わないで時々集りたかった。
差当って、今日は「食文化の日」
11月3日(月)
むらさきの色も重なり秋夕焼
午後遅くなって街へ出た。
二つほど用事を済ませて紅茶を飲んでひとやすみ。
ビルの西側の窓から、通り掛かりにふと見た夕焼が、いかにも秋の色。日本の色合い‥‥
あっという間に暗くなるこの頃の夕方に、深みのある夕焼は、しみじみと優しい。
11月4日(火)
熟柿三つ日暮れの店の籠の中
大通りにあるフルーツ・ショップ、いろんな果物が並んでいる。
アボガドとかパパイヤとかもあるが、もう、蜜柑が多くなった。
柿も同じ色で並んでいる。だからオレンジ色があふれている感じ。
左側に一際きれいなオレンジ色が、籠の中に三個づつ入って並べてある。
瑪瑙などを思わせる透明感のある色、少し尖った形の柿。あ、オレンジ色ではなく柿色!
宝石でなくて幸い、魅せられて買ってしまった。
11月5日(水)
歳時記を掌に繰りながら秋惜しむ
「俳句メモリー」を書き始めたのが秋になってから。
気の向くままが、毎日となり、同じ季語を使わないように注意していた。
作ってから歳時記で確かめたこともあり、或いは歳時記の中の季語を見て出来た句もある。
今夜は、見ているうちに「秋惜しむ」を選びたくなった。
明日は立冬。冬の季語に替わろうと思う。
11月6日(木)
新しく所さだめし膝毛布
朝、庭いっぱいの陽の光も明るいし、昼間の暖かさはとても冬とは言えない。
暖房が入っているかもしれないエアコンで、皆ぼうっと火照った頬をしている。
戸外は気持のいい秋晴れと呼びたい空、風‥‥
夕辺、大急ぎで日が落ちて、夜は冷えて来る。
テレビを見る時に使うのとは別に、コンピューターの椅子に明るい色の毛布を用意した。
11月7日(金)
水鳥の群光りゐて浅き川
この街の川に多いゆりかもめ、飛び交っているのも美しいが
流れに浮いて群れているのも好き。
何十羽いるのだろう、午後の陽に白く光っている。
雨が降らないので川の水は少くなり、流れも緩い。
きらきら光っているゆりかもめの群が小波に見えて‥‥
11月8日(土)
炉開きを告げ英国へ発ちし友
大阪で一人で住む親友、コンピューターは使えるのに買わない。
だから、電話でよく話す。
先日、炉開きのための準備とかいろいろ楽しそうに話していた。お茶の先生もしている。
編み物は抜群に上手で、まだ暑い頃にペアのヴェストを送ってくれた。
何色もの編込みで、色づかいは彼女独特のもの、写真をこのページに載せたいほど。
「ちょっと、ロンドンへ行って来るわ!」そんな電話で、遊びに出掛けました。
お茶室、十日ほどのクローズなのでしょうか。折角、炉を開いたのに。
私も明日の朝から、萩と松江へ行くことにします。英国ではないので、三日間。
11月9日(日)
紅葉にいざなはれ往く萩の町
秋吉台に立寄っての周防路はみごとな紅葉がつづく。
今年はもう紅葉狩を諦めていただけに、バスの中は歓声があちこちに。
宿に着いてからの、夕暮れの萩城址辺りの散策も、蔦紅葉をたのしみながら‥‥
思っていたような花器も見付けて、送ってもらうことにする。
神在月石見神楽のあでやかさ
萩から日本海の荒海を見つつ、と書きたいが、瀬戸内海かと思うような穏やかな青い海。
出雲大社から、松江へ。
若い頃、友達と来たことを思い出しながら、ハーンの旧居を訪ね、隣接の田部美術館へ。
江戸期の焼物のモダンな図柄に惹かれた。
「くにびきメッセ」の夜の会場で、ラストに演じられた石見神楽「大蛇」は、八岐のおろちならぬ八匹のおろち。
広いステージ一杯に躍動の絵巻が繰り広げられる!
「神楽」も冬の季語なのだが、折角のこの時期なので「神在月」を主としたい。
11月11日(火)
浮寝鳥松江の宿の虚子の句碑
宍道湖には水鳥の多い季節、鴨が居るのは分るが他にどんな鳥がいるのだろう。
水を背にした庭には白砂、姿のいい小振りの松が数本、中央の根元に句碑。
晶子も、紅葉も泊ったという宿に「私達、よかったわね」と言い合う。
鯛のそぼろをかける名物の鯛めしで、朝から御馳走。
小春日や出雲の旅の荷が届き
宅配便が届く。昨日の朝、宿へ頼んで出たのにと、あらためて便利さを思う。
写真も1時間でプリントが出来ている。旅の余韻は短くなってしまいそう‥‥
今までも、外国の旅行ではちょっとしたメモをとっていたが、それを纏めることはなかった。
俳句で日記の代りになって、数年たっても思い出す手がかりになっていた。
写真も実は整理が苦手、俳句が何よりとは思っていたが
このページを作ってから初めての旅で、 今までより大切にものを見ていたような気がする。
11月13日(木)
靴を買ふ落葉の路を歩くため
街角の小さな店で、歩きやすい靴を見つけた。
同じデザインで黒と茶色がある。
どちらもいいな‥‥
決めたのは茶色。
落葉の舞う路を歩きたい、黄色い銀杏並木がいい。
11月14日(金)
ふるさとのタウン誌見つつ蜜柑剥く
友達からタウン誌を送ってもらった。
特集に私の遠縁のご夫婦が出ているから、ということだった。
「街道をゆく」をテーマにしたもので、司馬夫人の友達である義理の従姉のこと。
以前にも読んではいたが、司馬氏の文章の中に、彼女が活き々々と書かれている。
懐かしい土地も、私の記憶より、もっともっと素晴しいものになって行く。
ふるさとは、蜜柑の産地でもある。
11月15日(土)
寄鍋にはなやぐ声のひとつふえ
短日や時間をたがへての会話
午後よりの風木々の葉を散らせきる
マネキンは赤いマフラー軽く掛け
フレームにセントポーリア閉じ込めて
随分前のこと、セントポーリアにお熱を上げた。
年中咲くことと、可愛い花のそれぞれの名前が魅力的で、 二三年育てていた。
南以外の窓辺でも良かったが、やはりフレームの中は見事に咲く。
でも、閉じ込められた花が可哀相になったし、手も掛かったし、フレームごと友達のところへ。
今でもセントポーリアは好きだが、買わない。
名前も[Pink Swan][Misty Rose][Fantasy]などしか思い出さない。
11月20日(木)
大地凍つるモスクワ・フィルの重厚さ
チャイコフスキー・プログラムで、「ピアノ協奏曲第1番」「交響曲第5番」「大序曲1812年」
なにしろコントラバスが9人、低音が力強く響く。
小山実稚恵のピアノは華麗。
アンコールの曲は知らなかったが、まるで、ウォッカを飲んで踊っているかのような楽しさ。
11月21日(金)
シクラメンないしょ話の少女たち
花がおなじ高さで咲き揃っているシクラメン。
何人かの女の子が集って話しているように見える。
中学生くらいかな、ちょっと大人っぽい仕草。
どうしたの?
一人だけ、輪の中に入っていない子‥‥
仲間はずれじゃないよね。一人で静かに何かを考えている。
11月22日(土)
障子背に古寺にての写真展
親しい写真家の作品展が先日ギャラリーで催された。
今日は郊外の名刹での半日だけのイベント。
障子や襖の前に掛けられたモノクロの写真が、いつもに増してあたたかい。
照明は、古い瓦をそのまま燭台にしての赤い蝋燭。
集った人達もみんな優しく、トレーナー姿の住職がなんともいい!
11月23日(日)
ちりばめる紅き莟よ姫椿
小さな庭なのに山茶花が何本かある。
沙羅と満天星と、そして山茶花だけを植えてもらったのかしら、しかも紅色ばかり。
他所より晩い開花の準備、いっぱい付いたつぼみは
緑の葉蔭でチラチラとして、クリスマス・ツリーのよう。
11月24日(月)
とほき夢白く飛び交ふゆりかもめ
ポインセチア色のドレスの主人公
出版記念のパーティーから帰ったところ。
ほんとうに嬉しそうな、挨拶をする彼女の素敵な笑顔。
CDケースのようなセンスのいい本。
いすゞさんは、ハンド・ベルの<C>の音を受け持って「もろびとこぞりて」の演奏も。
花のおすそ分けに、ストックと黄色の蘭をいただいて。
11月26日(水)
枯葉舞ふ舞ひながら音たててゆく
ワイン手に忘年会の話など
人参をグラッセにする雨の午後
わが庭に椿は白く咲きにけり
雷まで伴った雨が上った朝、白い花が一斉にひらいている。
侘助のように静かな花だが、高い木なのでそうではないだろう。
こんなに一度に花を見せることはなかったと思う。
好ましいクリスマス・ツリーが庭に出来た。
11月30日(日)
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