俳 句 メ モ リ ー

つくし手に幼き子らが駆けて来る
矢作川の土手には土筆がいっぱいに生えていた。
矢作川から、200メーター程のところに住んでいたので、我が家の庭にすら土筆が生えたこともある。
「今夜のおかず、つくしにしようね!」
そんなことが、なつかしい。
3月1日(日)
キャッシュ・コーナー機械と話す春の午後
グラスには紅きワインを雛の宵
久しぶりに我が家で、夕食会。
丁度、雛まつりだし、女性二人がそれぞれに料理をして、男性群をご招待ということかしら。
言い出したのは、うちの誰かで、「頂いたワインを飲むかい?」と電話をしたらしい。
二本のワインはどちらも美味しく、どちらも赤。
賑やかな「ワインを飲む会」だった。
3月3日(火)
朧夜のごとき歌声流れ来て
付けていたBSテレビで、わたしの大好きな曲が流れて来た。
サティの“Je Te Veux”
ピアノではよく聴いても、歌は以前FMで、フランスの女性歌手が歌っていたのだけしか知らない。
あの時の歌声よりも、素晴しい!
カウンター・テナーのファルセットが、艶やか!
米良美一の「ロマンス」というアルバムが、ゴールデン・ディスク賞に。
「ロマンス」を明日買おう。
3月4日(水)
花いちご夢いっぱいの荷が届き
ほのぼのと薄紅に染み白魚よ
いつだったか、白くない白魚の料理があった。
思いがけないし、きれいな色だったので、尋ねてみた。
「梅干しで煮ました」との説明。
だから、自然なうすべに色になるのかしら。
ほんとうに、やさしい色合いだった。
3月6日(金)
三月の遠き友との長電話
中学生だった時の同級生。
久しぶりの電話は長くなってしまう。
お互いに末っ子同志、そして、いろんなことを引き受けてしまうのも同じ。
まるで、ふたごのように、分り合えるところがある‥‥
あの頃の三月、二人ともセーラー服だった。
3月7日(土)
碧き絵を心にとめて春昼へ
友達が出している洋画展を見に行った。
二つ目のコーナーで、深い青の絵が目をひいた。
それが彼女の「ウインダーミアの朝」と題した50号の作品。
こんな青の色は見たことがない!そう思った。
早朝の草原に、羊たちが広がっている‥‥光の当ったところはやや明るい青。
10年で、彼女の感性が絵に現れた、そんな気がして嬉しかった。
当時、いささかのつかれを抱えていた友人を、絵の教室に誘ったのはわたしだったから
そして、わたしは止めてしまったのに、熱心になっていった彼女だから、ほんとうに嬉しかった。
3月8日(日)
春愁を午後のデパートに置いて来る
そうとう以前の俳句を思い出した。
春になんとなく憂鬱になる、そんな年令だったのかしら。
詳しくは覚えていないけれど、ささやかな買い物をして、ご機嫌よくなって‥‥
そんなことだったのだろう。
それとも、それでも気分は晴れなくて、「置いて来たんだから」と言い聞かせたのだったりして。
過ぎた頃の、自分の気持ちを詮索するのも面白い。
今?春愁なんて、感じないことにした。
春って、楽しい!と思うことにしている。
3月9日(月)
わが窓へ角を回れば春ともし
少し遅い雛祭、としてもいい、女同士での食事。
春らしい品々が出て、それが話題にもなって、より美味しくなる。
器に詳しい人と、店の大将との話も弾むし、カウンターは楽しい。
わたしの方が、あとで帰ったので‥‥ あたたかい、窓の明りのお出迎え!
3月10日(火)
薔薇の芽を育てるごとく雨の降る
春の草絵に描くひとの話して
たった今まで、電話で、草絵を習っている友達から、その先生の話を聞いていた。
八十六才になられるというのに、国内はもとより外国にまで、仕事で活動されているとか。
三日間を先生と共に過したばかりの友達は、いつもより雄弁で、活き々々した話し振りだった。
「パワーを頂くみたいなの!」そう言った。
一筆箋などに、時々見掛ける方だ。
お目に掛かってみたい気がする。
3月12日(木)
春の月満ち耀くを仰ぎたり
春の夜半電子メールのやさしさよ
今夜もまた、真夜中に読んだメールに、力づけられる。
今夜は「俳句メモリー」はおやすみ、と思っていて
メールを読むと、書きたくなる。
三人のお友達、Yujiさん、Yumikoさん、Rosetteさん、今夜のメール、ほんとうに有難う!
3月14日(土)
母子草なつかしき名の二つあり
蝌蚪の句を背に藍染を装ふ女
四月馬鹿の日でもないのに嘘をつき
11時頃だったか、30代らしい男の人の来訪。黒い手帳。
「○日の4時45分に駅から○ビルまで、タクシーに乗りましたね」といきなり言う。
「え?」「あの日の強盗事件知ってますか?それについて伺いたいのです」
「わたしが強盗したとでも?」「いえ、この写真の男を見ませんでしたか?」
チケットで乗ったタクシーからの調べらしい。
わたしって、今、そんなことにまで、煩わされたくない心境なのよ!とも言えず‥‥
我慢して付合っていた。
そして、約15分。疲れて来た。
「お名前を教えて下さい」「言ってもわたしの名は、お書きになれないと思いますので、自分で書きましょう」
「年令は?」「言えないわ」「大体でも教えて下さいませんか」とだんだん低姿勢になる。
マイナス10才で答えてあげた。
いよいよ、お帰りになる時、わたしはこう言ってしまった。
「警察の方でもね、次にものを訊ねにいらっしゃる時は、ケーキくらい持って来て下さいよね!」
3月17日(火)
ほうれん草茹でる仕草も明るくて
今朝、彼女は菠薐草と三つ葉でお浸しを作っていた。
日本の春を探しながら買物をして、美味しい料理を食卓に並べ
わたしのつかれを、この二日間で ふわーっとほぐしてくれた。
昨日の夜のこと
彼女は「大学生?」と言われて、可愛い目で嬉しそうに笑っていたっけ!
3月18日(日)
ちらちらと連翹の黄はひらき初む
綺麗だったチューリップのあと、玄関に何を活けよう?
ピンクのチューリップだったから、ほかの色がいい。
黄色がいいな、と思ったら、またチューリップかフリージアかしら。
庭に連翹があったじゃない、もう咲いているかもしれない。
花鋏を手に庭へ降りると、ミーが何処からか現れた。
隅の方で、濃い黄色の花が咲き始めている。
まだ咲き次いでいる侘介を添えて、連翹を活けていたら
ミーは、いつの間にか部屋の中で遊んでいた。
3月19日(木)
朝夕に眺めし琵琶湖春の波
ピアノ弾くひと仲春の風情見せ
一回生の時から知っている彼女は、白地にチャコールグレーの裾模様のドレスで美しかった。
亜麻色のような長い髪が弾く度に揺れて、女らしい。
ショパンのソナタを全身で表現していた。
時に、激しく、時に甘美に‥‥
恋をしているのかな、と思わせるほど。
コンサート・ホールでの卒業の演奏会には
ブルーのドレスでフルートを吹いた、もう一人の知っている学生さんも。
美しい青い鳥のようだった。
彼女の両腕で支えられたフルートが、きらっと光り、歌っていた。
3月21日(土)
春眠やパヴァロッティを聴きながら
昨夜のテレビで「パヴァロッティ・イン・名古屋」というのがあり、途中から見た。
妙に感のいい人が居て、ドームのではないかと言ったが、その通り。
丁度一年前の、名古屋ドームのオープニング・コンサートには
その一年前から騒いでチケットを手に入れ、大勢で行ったのだった。
あの時よりずっと、いい音になっていた。
ドームでは反響があって、なんか不思議な感じだった。
帰りに長い道を歩いたことも思い出しながら、聴いていたら‥‥
何時の間にやら、ホット・カーぺットで眠ってしまっていた。
とても立派すぎるLullaby!
(わたしがねむっても、そう言うのかしら?)
3月22日(日)
餌をさがす子雀の脚細きこと
鶯に目覚めし朝の清々し
黄の絨毯広がってゆく向ふ岸
誕生日祝ふか今日の初ざくら
雨の日にまで鶯の来て鳴きぬ
白く白く辛夷咲きたりひそやかに
夕食のあと、時々行く店でコーヒーを飲み帰って来た。
ガレージの前で、車のフロント・ガラスから、夜空に浮ぶ白い花が目に入る。
静かで優しい花は、控え目なのにちゃんと自己主張をしている。
おばあちゃま みたい、そう思った。
3月28日(土)
夜桜やぼんぼり揺れる川の水
恒例になった花見の会に、今年はイギリスのご夫妻も。
食事をした川沿いのホテルに、丁度、バス3台でお相撲さん達が到着した。
エントランスに居た私達は、若の花 を迎えた形になった。
明日あるというご当地場所のためらしい。
七分咲きの夕ざくらはさあーっと眺めて、お相撲さんの鬢付け油の匂いや
持っている、大きなナウいバッグなどの方が印象的だった。
晩くなっての川面がぼんぼりを映して、綺麗だった。
3月29日(日)
新しき発想若草萌ゆるごと
一つのことをテーマに話していても
そこに、若い人が居ると居ないとでは、進展の方向が違って来る。
時には雑談のようになりながら、瞬時に新しい展開になったりして、飛躍がある。
言った本人が驚いているのも、見ていてとても楽しい。
3月30日(月)
続くつづく桜トンネル川流る
Yujiさん、Miwaさんと、軽く朝食をとってお喋りしたあと
少し遠回りして、桜並木の土手をドライヴして帰った。
いつも見ている川よりずっと細くて
水の上が、両岸の桜並木でトンネルになっている素敵なところ。
明日から、この並木の傍にあるギャラリーで
わたしの好きな画家の、桜の絵が見られる。
ギャラリーへ行く時は、花吹雪の路を歩いて行く!
3月31日(火)
俳句メモリー4月へ
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