俳 句 メ モ リ ー
たんぽぽのふわふわ白き夢のとぶ
たんぽぽを歌った詩人がいる。
わたしは、幼い頃に、その人の家の近くに住んでいた。
四国の愛媛の静かな海辺の町で
その人が搾った山羊の乳を飲ませてもらったことがある。
4月1日(水)
花冷えや言葉も空も美しき
アネモネの図柄描かれしティーカップ
事務所のカウンターの小さな花瓶には、アネモネが活けてある。
濃紫の、ピンクの、黄色の‥‥
「ほら、たしか、4月のだったと思うんですけど。アネモネの模様のティーカップ」
と、わたしに言った彼女は4月生れ。わたしも4月生れ。
ロイヤル・アルバートの誕生月のカップも並べてあった、以前持っていた子供服のお店のことを
二人で懐かしいな、と感じていた。
4月3日(金)
懐かしさをも贈られて山躑躅
招かれたお宅は、マンションの10階。
見晴らしのいいこと! 南も北も西側も、遠くまで見渡せる。
南のベランダからは、少し離れて花の雲がつづく、見下ろしながらの花見。
帰りには、ご夫妻で山から採ってらしたというつつじを沢山に頂いた。
今日は、わたしの母の命日。
野あざみが好きだった母に、山つつじも似合う、そんな気がして嬉しい。
4月4日(土)
花衣まとひ行きたし御所の庭
8時頃に出発することになっている。
今日わたしだけ、友人の車に乗せてもらって、京都へ行く。
明日の朝、御所の枝垂桜を見るために。
みんな、きっとカジュアル・ウェアで!
一人は、出張先の東京から新幹線で行って合流する。
泊るのはインターネットで予約してみたホテル。
4月5日(日)
糸柳誘ひて揺れて紅しだれ
昨夜歩いた夕暮れの白川沿いの、枝垂桜とうすみどりの柳は、この上ない美しさ。
吉井勇の歌碑の前で、あれこれと解説している人を見かけて
その人が、わたしより若いと思ったので、どんな話か気になった。
こちらの連れは、歌碑と一緒に男二人で並んで、わたしのカメラにおさまったりして‥‥
「枕の下を水のながるる」に、未だ憧れを抱いている?
今日は雨で、御所の枝垂桜は諦めて、嵐山へのドライヴとなる。
雨にけぶる桜と渡月橋、嵐山、これもまた、いい眺めだった。
一年前に一緒に行った、台北の筱玲へ。
今年も同じメンバーで、あなたのこと話してました。
4月6日(月)
花束を抱きし友の春袷
友達の誕生パーティーは95パーセント女性。
ちょっとした趣向があって、 皆からの大きな花束に、彼女は驚きと、笑いと、そしてなみだ。
全員が感動していた。
海老茶色だろうか、ココア色だろうか
縫取りのある付け下げの和服姿が、素敵だった。
4月7日(火)
聞こえます?満天星の花の鈴の音が
今年はどの花もなのだろうが、特にドウダンツツジが早くておどろく。
小さく白いものが、ちらちらと見えていたのは数日前。
今日はもう、半分近いほどの花が咲いている。
鈴蘭のような花が風に揺れたら、どんな音がするのかな。
あんなに沢山の花だから、オルゴールのように鳴るのかも‥‥
4月8日(水)
夜なべして飯蛸を煮ることとなり
わたしは、あんまり好きではないのですけれど
ホラ、だれかの好物で、送ってもらうように頼んであったのが、届いたのは昨日の夕方。
昨夜は歓迎会で、二人とも出掛けるのは決っていたのに‥‥
蛸が待ってるから、二次会にも行かないで帰って来ました。
一休みして、蛸を洗って、大きなお鍋を一杯にして煮たんです。
ほんとに、これって夜鍋だわ!と思いながら。
だれかさんは、夜中にも、今朝も、飯蛸。
今夜も集りがあるので、一度帰って来て、大き目のシール容器で持って出掛けました。
皆さんと召し上るそうです。
わたしも夕食に、二匹くらいは食べようかな、と考えています。
P.S.《夜なべ》は秋の季語ですが、季重なりだろうと、これは使いたいのです。
4月9日(木)
木の芽和より始りし京料理
数日前の京都での昼食は、四条の錦水亭でとった。
ここ数年、筍づくしと決めている。
「のこ造り」と、お品書きにあるのは、竹の子の刺身だし、すべて筍。
おかげで、わたしは半月程は筍を買う気にならない。
あんなに美味しくはないだろうし‥‥
でも、しばらくしてから、筍御飯だけは自分の味で作りたい。
4月10日(金)
打ち放しへと春睡を振り払ひ
昨夜から一緒に行くと言ってしまっていたので、朝、起こされた。
眠いんですけど‥‥どうしよう‥‥
起きてよかった!
外で軽く朝食のあと、半年ぶりくらいで、ゴルフの練習場へ。
わたしの他は男性ばかり。
そうですよね、朝ごはん作ってならわたしも来ない。
コースへ出ることは、旅先ででもない限り無理としても、ボールを打つのはいい気分。
ほんと、起きてよかった!
4月11日(土)
春の服にすら出会ひといふものの
お礼の品を選ぶために、デパートへ行き、婦人服のコーナーを見ていた。
昨年秋にリニューアルしてから、新しく出来たブティックの一つで、名前を呼ばれた。
ずっと以前に買っていたお店に居た人で、何年も会っていない人だった。
お喋りしながら、ふと、目についた紺の薄いジャケットを着てみたら‥‥!!!
着やすい、ぴったり合う、材質も縫製もいい。
渋い花柄のワンピースもそう、お直しなし!
それで、お値段も高くはない。 嬉しくなって、買うことにした。
探す時には、なかなか見つからないんだから‥‥
第一の目的だった差し上げる品は、後回しになったけれど、サマー・セーターを選んだ。
4月12日(日)
細魚なほ細く切ることたのしみぬ
活きのいい小鰯とさよりを買った。
小鰯はさっと煮た。生姜は入れないで、醤油と酒と水だけ。砂糖なんて、もっての外。
海辺の町で育ったので、新鮮な魚を見ると、買いたくなる。
そして、あまり手を加えないで食べたい。
細く切ったさよりは、刺身にと考えていたのに、気が変って胡瓜との酢の物に。
一匹分は、半分に切って吸い物に使った。
さよりの字はいろいろある。細魚、針魚、竹魚など。
4月13日(月)
春暑し濁流の河眺めをり
雨続きで、蒸し暑い。
まるで梅雨のよう、と誰もがいう。
いっそ、思い切って動き、汗ばんだ後の方が気分はいい。
冷房に切り替えられたものの、不快指数の高い部屋の窓から、見下ろした川はいつもと違う。
桜の若葉の向うを、水嵩を増し、茶色に濁り、渦巻きながら流れている。
4月14日(火)
草引きを諦めさせる名草の芽
あんなに降り続いた雨が止み、日光が眩しい。
濡れ縁に掛けていたら、芝生の草が目につくので、庭に降りた。
まだ小さな草を取りはじめて、あっ、これは‥‥
カタバミとかハコベとか、草の名前に気が付く。
タンポポだろうか? の辺りで可愛い、と思い始めて
ハハコグサ、母子草!
‥‥もう少し大きくなるまで引かないでおこう。
こんなわけで、我が家の芝生の手入れは、わたしの仕事にはならないんです。
4月15日(水)
七色の夢閉じ込めてしゃぼん玉
しゃぼん玉で遊んだわけではない。
でも、飛ばしてみたいような明るさの庭で、昼下りにミーとクロチャンと遊んでいた。
歳時記の《石鹸玉》を見たら、あの綺麗な色を思った。
子供達の夢を一杯に包んで、しゃぼん玉は飛んでいるのだろう。
パチンとはじけても、夢は大切。
空まで届く夢もある!
歳時記にあった句がとても好きになった。
4月16日(木)
夜へ一歩蛙の声は響きたり
午後からの会合を終えて、二次会からは一足お先にとホテルを出た。
中が明るいので、うっかりしていたが、田園地帯に出来た建物なのだ。
ドアから一歩出た途端に、蛙の大合唱!
十数年前には、この近くに住んでいたので
その頃の今の季節を思い出した。
窓から聞こえるうるさい程の声に、お風呂の中で自分も蛙みたいに感じたり‥‥
そんなことが懐しくなった。
4月17日(金)
春時雨同級会は船の中
「大川のクルージングと、その後でお食事です」
そんな案内を貰った、大阪での同級会。
行かなかったけれど、みんなが集った頃の雨が気にかかった。
幹事さんはわたしの親友、雨にぬれても、きっと楽しかったと思う。
4月18日(土)
藤波の文様 染織展の女
草木染の織物を見に行った。
会場に入るなり、やわらかい空気に包まれたよう。
自然が生んだ美しい色。
色を引き出して、糸に染め、織り上げてまた美しい色を創る‥‥
そのひとの着物は、薄い藍色に白く藤の柄を織ったものだった。
「葛が原」「竹取物語」など、作品の名前にも夢があった。
4月19日(日)
ひとときをビルより出でて青き踏む
昼食後の20分ほど、若い人二人を誘って河川敷へ。
堤の道から降りる時に、「毛虫がいそう‥‥」と言ったりする。
何言ってんの、毛虫がいてもいいじゃない!
暑いくらいの今日だから、桜並木の若葉が匂う。
タンポポが咲いていたり、鳩がわたし達の先に立って歩いたり
若いママと遊びに来ている坊やは、石段のところで、ひとりごとを‥‥
いつも、ゲームで昼休みを過している二人が、緑の中で活き々々として見えた。
4月20日(月)
躑躅日ごと日ごとに紅し国道は
つつじの多い街。
国道沿いの植え込みが鮮やかになっていく。それが今年は本当に早い。
池の回りにつつじがあふれる公園に行ってみよう。
一年前に作った句を思い出した。つつじを写して喜んでいたのは、実は若いミセスだったけれど。
4月21日(火)
初蝶をまだ見ぬことに気付きけり
「徹子の部屋」を久しぶりに見た。
森 英恵さんだった。
今までの作品が10点ほど並び、それぞれの説明や、エピソードも。
サテンの網代編みを使った黒のスーツ、黄色のスカーフと手袋が効いている。
立体的な薔薇の刺繍がゴージャスなドレス、ロイヤル・ブルーと茶色の組合せ‥‥
蝶の模様はほとんどなかった。
それで、わたしも今年まだ蝶を見ていない、と思ったのだ。
4月22日(水)
肩にふと寄りかかりたき春の泥
午後からずっと雨が降っている。夕方歩いた道路は舗装してあるところだけ。
この頃《春泥》には、なかなかお目に掛かれない。
こんな思いにも、もう出会いそうもない。
だいぶん前のわたしの俳句は、実だったのか虚だったのか、それも判然としない。
雨の中、ミーの声がした。縁の隅に居て、しきりに鳴く。
夜に来るなどはじめて。ミルクとソーセージにとびついた。
4月23日(木)
五月近しデパートにある花園へ
地下の食品売場へ行くための、急ぎ足なのに
1階のハンカチーフのコーナーで、立ち止ってしまう。
この頃のハンカチーフは大判になったし、色がほんとうに鮮やか。
たくさん持っていても、ふっと買いたくなる‥‥
好きな花を選ぶような感じ。
花屋さんではなくて、花園で!
4月24日(金)
春の闇草の馨りは湧き出でて
“It's a lovely night!”そう彼は言った。
送って行ったその住いは、駅から近いのに、丘の上の木立も多い一画。
車から降りたとたんに、涼しい風と草の匂いが流れて来た。
「楽しい夜でした」という意味なのだろうけれど
わたしには日本の春の夜を称える言葉、そんな風に思えた。
4月25日(土)
風車ベビーの碧き聡き眼よ
昨夜逢った赤ちゃんは、まだ5ヶ月に満たない男の子。
大人達の食事の間もほんとうにおとなしく、よく笑って愛くるしかった。
パフスリーヴの縁に細い黒いラインが2本あって、品のいい白いベビー・ウェア。
サテンのパイピングのスタイが、衿のようにボタンで止めてある。
それがよく似合う、イギリスのベビー!
まるで、思索でもしているかのような深い瞳で
こちらの心を読まれそうな‥‥
4月26日(日)
旅仕度明日からは常夏の邦
あゝ、慌しかった数日。
いろんな行事も重なって、留守中のことにも手配して。
荷造りは、いちばん後まわし‥‥
やっと、旅に出る!と、そんな気分になって来た。
わすれもの、ないかしら?
4月27日(月)
雲の峰はるか眼下に連なりて
高度を上げて行く機窓から、家並や川筋が消えると
いつか、雲と隣り合い、そして雲の上を飛ぶようになる。
昨年は何処へも行かなかったし、久しぶりの眺め。
あの美しい雲のどこかに、おばあちゃまが居る‥‥
一緒に行きましょう! Singaporeへ。
4月28日(火)
夏木立マイ・ホーム・ページを異国にて
ホテルのビジネス・センターで、インターネットをと思い付いた。
一人では気後れもして、一緒に行ってと頼む。
短時間でいい、と交渉してもらい、英語の画面でなんとかかんとか‥‥
見慣れた黄色い画面が現れた!
“Yukuko's Homepage”のタイトルと、(English)の文字が見えた。
その下には「青き絵を心にとめて春昼へ」の俳句が、暗号と化している。
当り前のことなのに、自分で体験してみて、納得するものなんですね。
Englishページを作っていて良かった!
4月29日(水)
日焼けして美しき肌むき出しに
インド系の人は、もともとだが
中国系の若い女性が肌を焼いているのは、ほんとうに美しい。
細くしなやかな肩と腕を出した、黒いストラップ・ドレス。
常夏の国の街で、見とれてしまう。
でも、効き過ぎた冷房の中に入ったら、あの子、平気なのかしら?
4月30日(木)
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