季 節 の 中 で
秋
葡萄の絵見ながら葡萄含みをり
「この巨峰は、特別に甘いね」
「そう、Hirayamaさんにもらったの」
もう10年以上も、この頃になると採れたばかりの葡萄を持って訪ねてもらった。
今年は宅配便で届いたけれど、電話をすると、とても元気な声だった。
葡萄の絵は水彩。
居間に掛けてある、ほっとするような絵。
9月1日(火)
「月と女」画家の横顔そのままに
友達に誘われて行った画廊には
そのまた友人という女流画家の絵が並んでいた。
強いタッチの向日葵の花の油彩もあったが
赤と黒、そして女、をテーマにした不思議な魅力のリトグラフが多い。
月と兎をあしらい、真白い裸体に黒い布を纏った女の顔はキュート。
気が付くと、絵の中の女達の顔は、その画家にそっくりだった。
あら! 今日も絵の話‥‥
9月2日(水)
その色に誘はれて買ふ通草の実
フレッシュ・ジュースを飲みたくて入った果物屋のウィンドウには
爽やかなむらさきの通草の実が、篭に入っていた。
奨められるままに、梨のジュースを作ってもらう間に
黄色の桃とメキシカン・マンゴーを選んでいた。
「あんまり美味しくはないよ」
そう言われながら、一つだけ通草の実を買って帰った。
美しいと思ったし、俳句にしたかったから。
9月4日(金)
肌寒や枝垂れて白きさるすべり
季重なりなのだろう。
でも、そのままのこと。
雨の日曜日に、テレビを見て座ったままだと少し寒くなった。
花に水を含んださるすべりは、美しく枝垂れている。
涼しそうに見えていた白い花が
ほら、もう、肌寒さを増す。
9月6日(日)
祐三展観てなほ暑き秋の夕
俳句を始めて間もない頃、1979年のもの。
ええっ!19年も前だったの?
今、名古屋で開催中の「佐伯祐三展」には、まだ行っていない。
あの時も秋だったのかと、この句を見て思う。
もっと秋が深くなってから、ゆったりとした気分で、あの絵を観に行きたい。
9月7日(月)
願ひひとつ実れる港青蜜柑
かなかなやわたしもすこしだけうたひ
昨日からすこしHighになっているみたい。
野外でのバーベキューの会で、カラオケが始った。
しばらくして、誰も歌わないまま流れている曲が「サントワ・マミー」
途中からだけれど、飛び出していた。
カラオケは好きではないのに、歌っちゃった!
矢作川の近くで、いい気分でした。
9月11日(金)
ふるさとの話それぞれ秋日和
子の電話鰯煮ながら長話
駅前通りの魚屋で、新鮮な鰯を見かけて取っておいて貰う。
帰りに買って、夕方煮ていたら、久しぶりの電話。
お鍋を覗き込んだり、火加減を見たりして彼と話すと
高校生の頃の顔が浮んで来る。
お料理、けっこう上手だったよね!
9月14日(月)
月の夜に愛でよと言ひて賜りし
どのように作ればいいのか、随分と考えた。
今日の午後、頂いて来たのは月下美人の鉢。
1メーター以上の高さで、小さな蕾が十は付いている。
二年前の今頃、咲く花を夜遅く見せて頂いた方からのプレゼント。
「月下美人」は「さぼてん」の中で夏の季語だから‥‥
でも、白く馨って咲く夜は、そのまま「月下美人」で句にしよう。
「毎年、9月に咲くんですよ」と言われるのだから、秋の季語にしてほしい。
9月16日(水)
秋江に光映して夜の橋
駅の手前の橋は、照明が美しい。
川下から橋に近づく時、一瞬知らない街にいるような水面。
キラキラと揺れる光‥‥
木立を一本過ぎたら、もう光がない!
闇の川が流れている。
時計を見れば、9時ちょうど。
一晩中ライトアップしていてもいいのに。
9月18日(金)
そこだけに風は流れる韮の花
いつまでも、いつまでも暑い今年。
部屋の南側には、午前中の陽射しがもう相当に入って来る。
ブラインドを下したままで、楽しくはない。
庭の片隅に韮の花が咲いている。
涼しげに揺れる白い花。
あら、と気付いたので探してみたら、やはりあった!
一年前の9月9日の「俳句メモリー」に。
9月20日(日)
台風の唸り声聞くビルの窓
北側の窓は、雨の滴が落ちないほどに吹き付ける風。
時として恐ろしいような音がする。
外気温を示す丸い温度計は、いつの間にか飛んでしまっていた。
音が次第におさまって、窓から下を見れば、並木の揺れ方が変っている。
南風になり、重い色の雲はどんどん北へ向って流れて行く。
9月22日(火)
がちゃがちゃやメトロノームのやうに鳴き
台風が過ぎたあとも、曇った空で、夕方からは雨。
雨の夜中に鳴くのはくつわ虫。
時々休止符はあっても、リズムがくずれない。
強弱はないし、あんまり正確なので、こちらが疲れてしまう‥‥
もっと、ソフトに鳴けないの?
9月23日(水)
ある日ふと赤きまろき実木斛の
きれいな赤!
庭の片隅の木斛の木の中ほどに、かたまっている。
あの色の濃さだと、昨日も一昨日も気が付いてもいいのに‥‥
そんなことは、わたしの周りに、もっとあるのだろう。
美しいことには、気付きたい!
9月25日(金)
雨だれの響きくる窓夜の秋
少し冷えて来たようだ。
台風の後、雨の日がつづいていたが
明日は晴れるのかしら?
青い空が見たい。爽やかな空気がほしい。
雨だれの音を聴きながら
月下美人は、咲き初める仕度をしている‥‥
9月27日(日)
寄り添ひて月下美人は薫りたり
我が家で初めての月下美人の開花!
四つの蕾が咲きそうだと思ったのは8時少し前だった。
見にいらっしゃいと誘った人達が揃うまで
どんどん開いていく花に魅せられていた‥‥
開ききった月下美人は、凛として気品がある。
下の方に並んで咲いた二つは、仲のいい姉妹なのか、ささやき合っているみたい。
花に合わせて白ワインを。
ワインに酔ったのか、月下美人が放つ香に酔ったのか‥‥
9月29日(火)
木犀のかぐはしさ色仄かなる
ミーたちに牛乳をやらなかったら、気付かなかった。
芝生にいたチコが、金木犀の樹の下へ入らなかったら、気付かなかった。
微かなかすかな匂いが流れていて
見上げると、淡い色のつぼみが‥‥!
今年は多く付いている。雨が降り続いたから?
10月2日(金)
星ひとつ寄り添ひしまま小望月
もう何度も庭に出て月を見ている。
星は月の左側から、右上に位置を替えた。
夜間飛行のテールライトが
月に向って行くようにも見えて
ロケットを思い出してしまったけれど、月には兎が居てほしい。
10月4日(日)
月は今雲を払ひて耀けり
曇り空の今日、満月は見えないのでは、と言っていた。
夕方の空には一面の雲、7時頃に見上げても暗いだけだった。
9時前に外が明るいような気がして、庭へ出る‥‥
昨夜は傍に並んでいた星は?
ずっと離れたところで光っている。
「今夜はあなたがスターよ」 と!!!
10月5日(月)‥‥月!
十六夜に願ひを二つゆだねたし
雨しげし桂の花も散り初めむ
父の本を整理するのに熱中していて
雨が強くなったことにも気付かないでいた。
あゝ大変!という言葉の中には、自分の心を持て余す意味もある。
母に繋がるものがあったりすると、どうしようもない。
半日手伝ってくれた義妹が帰る頃には、やや小降りになっていた。
降る雨に、金木犀の香が夜の中に広がっている。
10月7日(水)
おだやかさ里芋を煮て生れけり
長電話などめづらしく秋うらら
色あふれ秋の時雨の花館
折り畳み傘を持って出掛ける。
東名ハイウェイの工事で予想された渋滞は、大したこともなく
大正初期建造の邸宅を見て、長良川河口堰見学。
その後で行ったベゴニア・ガーデンのあでやかさ!
ベゴニアってこんなに大きいの!
まるで花のジャングルのような、広いひろい温室だった。
10月14日(水)
初紅葉やっと制服新しく
風は過ぎコスモスなほも紅く咲く
新しきビルは伸びゆき秋天へ
指輪にもほしき色して蛍草
オフィス街むらさき色の小秋蝶
日曜日のオフィス街。
ほんの少しの花が咲いている花壇。
うす紫のものが、ちらちらと舞っている。
信号待ちになったタクシーの窓から、ちいさな蝶だと分った。
都会のこんなところに、こんなにも可愛い生きものがいる!
10月25日(日)
木犀の花はふたたび湧き出でし
朝、部屋に居て金木犀の匂いがしたような。
「?」と思いながらも、そのままに‥‥
ミー達がニャーニャーとうるさいので、庭へ出たら
まさしく木犀の香り。
見ると、北側に多いにしても、ほぼ全面に黄色い蕾!
ちらほらと開いている。
いったい、どうしたの?
この頁を見返したら、10月2日に金木犀は咲いている。
昨年は花が少なかった、にしても‥‥
10月29日(木)
夜なべせし母の指先その動き
線上に紅ちらちらと水引草
庭の隅っこで見つけた小さな水引草。
摘んで来て織部に活けた。
枝振りが良いというほどもない草なのに、形になっている。
華やかさとは違う、好もしさ。
そう言えば今日、初めて仲人を頼まれたという人の話を聞いたっけ。
11月2日(月)
甘栗をぱちっと割ればしあはせが
そう思うことなんて、ありません?
ちょっと、難しいじゃないですか。
わたしは甘栗を食べるの、上手な方なんですよ。
丸いやわらかみのある実が、ぽろんと出て来て
おや指とひとさし指とで、口に運ぶ‥‥
美味しい!
そんな、秋の午後の、夜の、ちいさなよろこびです。
11月4日(水)
古きふるき手帳の歌よそぞろ寒
見たこともない手帳。
彼がまだ結婚していない頃の手帳。
短歌がびっしりと書かれている。
病後の歌、父親の歌、教え子の歌、それから‥‥どんなものがあるのだろう。
片付けの合間に読むものではない。
父が二十代だった頃の手帳。
11月5日(木)
カーヴして色づく並木薄紅葉
お昼に行った喫茶店までの道。
こころよい曲線の並木道。
秋の季語としては少し遅いけれど、まさしく薄紅葉!
引越しのヴァリエーションなので、いつもは食べないのに
スパゲッティ・ミートソースをオーダー。
そのあとで、お気に入りのジャム・トーストがほしくなったけれど‥‥
11月7日(土)