季 節 の 中 で









葡萄の絵見ながら葡萄含みをり



「月と女」画家の横顔そのままに



その色に誘はれて買ふ通草の実


肌寒や枝垂れて白きさるすべり



祐三展観てなほ暑き秋の夕



願ひひとつ実れる港青蜜柑



かなかなやわたしもすこしだけうたひ



ふるさとの話それぞれ秋日和



子の電話鰯煮ながら長話



月の夜に愛でよと言ひて賜りし



秋江に光映して夜の橋



そこだけに風は流れる韮の花



台風の唸り声聞くビルの窓




がちゃがちゃやメトロノームのやうに鳴き



ある日ふと赤きまろき実木斛の



雨だれの響きくる窓夜の秋



寄り添ひて月下美人は薫りたり




木犀のかぐはしさ色仄かなる



星ひとつ寄り添ひしまま小望月



月は今雲を払ひて耀けり



十六夜に願ひを二つゆだねたし



雨しげし桂の花も散り初めむ



おだやかさ里芋を煮て生れけり



長電話などめづらしく秋うらら



色あふれ秋の時雨の花館



初紅葉やっと制服新しく



風は過ぎコスモスなほも紅く咲く



新しきビルは伸びゆき秋天へ



指輪にもほしき色して蛍草



オフィス街むらさき色の小秋蝶



木犀の花はふたたび湧き出でし



夜なべせし母の指先その動き



線上に紅ちらちらと水引草



甘栗をぱちっと割ればしあはせが



古きふるき手帳の歌よそぞろ寒



カーヴして色づく並木薄紅葉



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