季 節 の 中 で









三匹の猫ねむる夜冬に入る



その辺りやはらかき風返り花



群なして斜めに飛びてゆりかもめ



冬夕焼ビルの谷間へ沈む陽よ



降る星の冴え煌くを夢に見む



みかん掌にその香指より広がりぬ




白菜のことさら美味し鍋囲む




冬紅葉河を上下の遊覧船





障子張り頼むと決めて安堵して




冬の鳥デュエット白銀の渦の







なんとなく浮き立つこころ大聖樹



赤く燃え紅く灯して冬の庭



薄造り河豚が良いともおこぜとも



凩やそれでも街にきらめく灯



凍星をトランペットは瞬かせ



ポインセチアの赤よ白きの降るを待つ



牡蠣を買ふ自づから瀬戸内のもの



ふるさとの事のあれこれ鮟鱇鍋



畳替あたらしき風流るべし



加速度で広がる世界冬銀河



今朝も掌に残るかに思ひ柚子湯の香



フルートは奏で上げたり“Oh Holy Night”






荷を開けて目に入り来る酢茎漬



やはらかし畑一面の朝の霜



友人に会ふこともまた年用意






去年今年鈴の音響く三番叟



白鳥よ金と真珠のブローチの



印刷す賀状に代へてこのページ



矢作川五日の旭昇りたり



カーテンを透す陽射しや福寿草






風花よ文字なき便り読みてをり



万物を包みて白し朝の雪



寒紅をひく間もなしに家出妻



投扇を支へる指の長さかな



寒稽古「元禄繚乱」馬最中



後れ毛の揺れやはらかし春近し



縄編を覚えし朱き毛糸玉



白き葱切りをりチャイム鳴るまでに



微笑みの想ひ浮かびて寒満月



この空も今しばらくの冬景色



雪道を戻り二人で豆を撒き




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