季 節 の 中 で









蔓薔薇に飾られてあのティールーム



香水の名を尋ねつつ幾十年



鉄線花町角にその勁さ見せ



トマト赤しなにやら熱き子育て論



広々と田植え済ませし水の揺れ



真直ぐに立つことすらもさくらんぼ



けだるくて風船虫と遊びたし



苺ジャムの匂ひ流れし頃のこと



ひたすらに杜鵑花朱色に咲きはじむ



メロン切る薄き眞白き包丁で



レース編む初夏のしあはせリフレイン



茉莉花のおしばな海の香も連れて



トラックの絶えぬ国道立葵



新しき香水ほしと想ふ朝



まだ白き眞白き毬よあぢさゐの



白玉に少し秘密を漏らしたき



ほのぼのとわたしに見える虹の橋



この街のあの町角に薔薇の家



ささやきにささやき返す沙羅の花



黄の百合の波はうねりて耀けり



何色の帆張りて君のヨット航く



さくらんぼ紅くて光る四分音符



梅雨らしく降りそむエチュード流れくる



パンを焼くにほひ濃くなり梅雨の昼



木斛の花の向ふは白い雲



万緑や甍のみ見せ天守閣



うす紅はうす紫に七変化



絵葉書はシカゴの夜景胡瓜切る



二回転素早し月見草咲けり



どの葉裏に羽を守るや梅雨の蝶



捩花の伸びゆく意志よ朝の陽に



レース洗ふ梅雨も上りし日のために



篠の子や十本ほどの線となり



美青年と名刺交換六月尽



花南天訛りふと出る長電話



緑蔭へメナムの河の風誘ふ



合掌の笑み涼しげにドア・ボーイ



夏の燈は木立にイタリア料理店



句集手に芝生に立てば落し文



緑蔭や山門通し見ゆる城



白き花想ふいくつか鱧おとし



見たいのは鴎の翔んでゐる夕焼



ア・カペラの波状音包む夜の夏



風が吹く暑中見舞のひとことに



萍が三角形となる水田



アイスコーヒー残して初対面同志



青空に笹の葉揺れる昼寝覚



朝風とともに入り来る蝉時雨



夏桃を左手に載せ二三秒



今宵いな明夜ひらかむ月下美人



夕空を夏うぐひすの声澄みて



儚くも誇らかに白き月下美人




揚花火重なる色と消ゆる色

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