季 節 の 中 で
夏
蔓薔薇に飾られてあのティールーム
みんなが好きな喫茶店への道は
この季節、若葉の並木でほんとうに爽やか。
青い三角の屋根。
ハーブの鉢には可憐な花々。
隣のお宅の玄関から、こぼれるような黄色の薔薇が!
そう、落着いた雰囲気の木香薔薇。
5月6日(水)
香水の名を尋ねつつ幾十年
その香水の名は≪Bouquet d'amour≫
フランス製、角型の瓶‥‥
わたしが好きな香水は、多分その かおり に似ているのだと思う。
香水の名だけは、その時、はっきりと覚えようとした。
わたしが15才の四月。
もしかしたら、もしかしたら
バンマツリの香に近いのかもしれない。
5月9日(日)
鉄線花町角にその勁さ見せ
いつもの道
曲り角の家の前に
いつもはないのに、造花かと思わせるほど、いっせいに咲いた十以上の花の鉢。
うすむらさきの鉄線の花。
茎だけでなく、その花もとても毅然としている。
「よーし、わたしも!」と、大きく息を吸う。
5月11日(火)
トマト赤しなにやら熱き子育て論
「女性は二度人生を楽しめるんです」
言い切るMちゃん。
つまり、育って行く子供と一緒に、もう一度いろんなことを経験する、ということらしい。
だから、楽しい。
だから、自分も育つ。
「だって、同じ事をまた経験するんですから!」
真っ赤なトマトサラダを食べながら、スプモーニを飲みながら
妹みたいな彼女の話に、うんうん、と肯いているわたし。
損したのかも‥‥そんな表情を見せたひとも居ましたよ。
発端は、そのひとが読んでいる『七つの習慣』という本。
ちら、と手に採った彼女が言ったひとことから。
「これ、女の人には自然にわかってることだわ」
5月12日(水)
広々と田植え済ませし水の揺れ
家と家に挟まれた田。
以前にくらべれば、狭くなっているけれど
向う側は若草の土手で、やはり、広がりが‥‥
昨日植えられたような、細い苗たちが、風に揺れている。
水面もきらきら光っている。
5月14日(金)
真直ぐに立つことすらもさくらんぼ
わたしって、どんなにいい加減な姿勢でいたのかしら。
床に対して真直ぐに立つ、そのことの難しさ。
ちゃんと立てたら、回っても平気!!!
桜桃の実をいっぱいに付けた枝は、垂直に活けてあった?
5月15日(土)
けだるくて風船虫と遊びたし
歳時記の中で見付けた虫。
いたよねえ、そういう、かわいい虫。
コップの中の水へ、折り紙などを小さく切って一緒に入れると、紙とあそぶの。
まだ明るい、夕方だから
そんな風船虫を、ぼんやりと眺めていたいなあ。
5月17日(月)
苺ジャムの匂ひ流れし頃のこと
大きな鍋で煮ていた頃。
甘い匂いが、リビングにも、庭へも漂っていた頃。
今年は作ってみようかしら。
キッチンではなく、テーブルの上に電磁調理器を持って来て。
換気扇を付けていると、見えないところでは、きっと忘れてしまうから‥‥
コンピュータのここでも、見えるから‥‥
5月18日(火)
ひたすらに杜鵑花朱色に咲きはじむ
メロン切る薄き眞白き包丁で
セラミックの包丁に憧れ(?)ながら
自分で買うことはしなかった。
もう完全に、そんなことも忘れてしまった頃になって
先月かしら、ペティ・ナイフとのセットを戴いた。
よく切れるけれど、どうも大根や人参には合わないような。
小さめのメロンのみどり色、かおり‥‥これはほんとうにお似合いよ。
5月23日(日)
レース編む初夏のしあはせリフレイン
レース糸と鈎針。
何年も放って置いた、編み掛けのものもある。
そのつづき、じゃなくて
小さなドイリーでもいいから、新しく編みたい。
物を作ることを、忘れてしまっていた。
出来上る時の、嬉しさも。
5月24日(月)
茉莉花のおしばな海の香も連れて
トラックの絶えぬ国道立葵
街の中を通っている国道1号線。
乗用車だけがゆるやかに走るのは、正月しかないような気がする。
新しいビルが建っても、樹を植えてみても、殺風景な轟音通りなのだが
今日、一瞬目に入った二三本の、紅い大輪の花を付けた立葵は
そのあたりを、夏らしい美しさで活き々々とさせていた。
5月28日(金)
新しき香水ほしと想ふ朝
今日で五月もおわり。
明日からは新しい月、六月。
暑くなるし、梅雨にも入る。
一昨年くらいから、気に入ってる香水は二つで
シャンゼリゼと5th avenue。
なぜか、街の名ばかり。
ちょっと、変えたいよね!
5月31日(月)
まだ白き眞白き毬よあぢさゐの
何もかもが
機械で操作されているような
そんなふうに思えるとき
庭の花たちはやさしい。
でも、あなた、なぜコンピュータとなかよしなの?
そんな問いかけもしないやさしさ。
純粋ね。
あぢさゐ さん。
6月1日(火)
白玉に少し秘密を漏らしたき
湯の中でゆっくりと浮き上って
そっとすくって
それが、初めてのわたしのお料理だったような。
まるめるのも、粘土細工のようだし。
白玉をつくるのは、ほっとしたいとき。
「ねぇ‥‥」と呼びかけたいとき。
「なぁ‥‥」だったかな?
6月3日(木)
ほのぼのとわたしに見える虹の橋
この街のあの町角に薔薇の家
薔薇の好きなrosetteさんのページで知ったのは
薔薇のホームページだった。
偶然にもこの街の人のだと気付いて、メールを書いた。
一昨年の秋のこと。
「見にいらして」という返事を貰ったのに、去年の五月には行かなかった。
今年もそう、伺っていない。メールもその時の一度だけ。
数日前に、よく行く喫茶店で、その話をした。
ハーブをいっぱい育てている、その店のママとマスターは
住宅地図で探して、その近くの町角の家を教えてくれた。
行ってみたいのに、行けないでいる。
素敵なホームページを、時に見ているだけで
このページを、薔薇を作る人が、この街に、と思うのが好きなのかも。
6月7日(月)
ささやきにささやき返す沙羅の花
今年初めて咲いた白い花。
中ほどの枝に並んで二輪。
これから、しばらく咲きつづける‥‥
いろんな大きさの光ったまるい蕾が、今年は多いような。
6月8日(火)
黄の百合の波はうねりて耀けり
門を入ると、なだらかな丘一面の黄色の百合!
「やっと、目が覚めたわ」「うん」
それが、彼女とわたしの会話。
二人とも、昼食後のバスの中で眠っていたから。
いつものように、仲間と外れてゆっくりと二人のペース。
百合の園へ来ていて、百合を見ているのかどうか分らない。
遠州「可睡ゆりの園」には、眞緑の池があって、こんな話をしている。
「ねえ、これって、一昨年くらいのお茶の粉を入れてるんじゃない?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
その池のほとりに裏千家の茶室があり、今日庵のを模した九つを見た。
池に臨んだ茶室で、抹茶をいただく。
帰ってから調べたら、それは「咄々斎」と同じ造りで、床には姫沙羅の蕾が活けてあった。
彼女は「ロリポップ」という名のピンクの百合を一鉢求め
わたしは、あの黄色の「コネチカット・キング」を。
6月11日(金)
何色の帆張りて君のヨット航く
「君」‥‥
ええ、青春の句ですから!
浜名湖のヨット・レースです。
久しぶりのレースだから、参加するだけでいい。
そう言いながらも、弾んだ口調で、ヨットの楽しさを話していました。
おととい、高速道路の三ヶ日の橋の上から、湖を眺めて‥‥
そう、「君」は「彼女」です。
女性でいけなければ、彼女の夫君としてもいいですけれど。
でも、なんとかビリにはならないでほしいな、そう思っています。
もう、レースを終えて、仲間とビールを飲んでいる頃かもしれませんね。
6月13日(日)
さくらんぼ紅くて光る四分音符
梅雨らしく降りそむエチュード流れくる
二階か三階かのピアノの音が、中庭の窓から入って来る。
小学生はもう帰って来ている頃。
雨だれとは言わない、メロディーはきれいに流れているから。
Atsukoは、なんとコンチェルトを弾くらしい!
6月17日(木)
パンを焼くにほひ濃くなり梅雨の昼
ええ、今日はパンを焼きました。
発酵さすのにも最適な温度と湿度なんです。
‥‥‥
この句、またどこかに仕舞ってあったもの‥‥
今はもう、パンを焼いてはいません。
あの頃は、いいおくさんとママをしていましたね、ええ。
6月19日(土)
木斛の花の向ふは白い雲
歳時記を見ていた。
椎の花、朴の花、木斛の花‥‥
木斛?あったよね。
紅い実で気付くんだわ、いつも。
花?
知らない。
庭へ出てみました。
まだ、ほとんどが蕾のようですが。
梅雨晴の空をバックに、かわいいの!
6月20日(日)
万緑や甍のみ見せ天守閣
城山を眺めて育ち、暮したから
お城は山の上にある、と思っていたわたしも
長年の間に、この平地の身近な天守閣が好きになっている。
夕暮れ近い時、ビルの窓辺に近寄って、しばらく濃い緑を見つづけていた。
6月21日(月)
うす紅はうす紫に七変化
絵葉書はシカゴの夜景胡瓜切る
二回転素早し月見草咲けり
確めてみたいけれど、今は見掛けない花。
毎夕のように眺めていたあの頃。
ほうら、今にもくるっと回るのよ、このふくらんだ蕾!
四枚の花びらが、もし下を向いていたら‥‥
ラテン・ダンスの黄色いスカート?
6月24日(木)
どの葉裏に羽を守るや梅雨の蝶
捩花の伸びゆく意志よ朝の陽に
今日の季語は決っていたんです。
「アイスクリーム」って。
たった今、捩花オンパレード、そんな写真を見せていただいて
急遽変更です。
花のアップで、印象が変りました。
鮮やかな色で、グラジオラスよりも意志やエネルギーがありそう。
「これがわたしの生き方よ!」
6月26日(土)
レース洗ふ梅雨も上りし日のために
レースを編みたいと思ったものの
何時のことになるか‥‥
探し物をしていたら、以前に作ったドイリーとテーブル・センターがあった。
白い二つは漂白して、黄色のは色落ちしないように洗い直す。
糊を効かせたから、乾けばアイロンを掛けるだけ。
‥‥とてもこんなの編めないわ‥‥
6月27日(日)
篠の子や十本ほどの線となり
美青年と名刺交換六月尽
花南天訛りふと出る長電話
めずらしく午前中に彼女からの電話。
「仕事を止めたわ」という。
「ふ〜ん、やっぱり?」
「そう、やっぱりね」
「そうなの」
ここら辺りまでは、いい。
名古屋に居る彼女とは高校の時一緒だった。
あとは、一応普通に話しているつもりで、しっかりその頃の言葉に戻っているにちがいない。
「これから、インターネット始めるよ」そう言っていた。
6月30日(水)
緑蔭へメナムの河の風誘ふ
初めてタイへ行った時の
あれはオリエンタル・ホテルの中庭。
円形のテーブルで、絵葉書を書くなどしていた。
ほんの数日のことが
ほんの数時間のことが
ゆったりした時の流れだったような気がする。
7月1日(木)
合掌の笑み涼しげにドア・ボーイ
夏の燈は木立にイタリア料理店
句集手に芝生に立てば落し文
緑蔭や山門通し見ゆる城
白き花想ふいくつか鱧おとし
見たいのは鴎の翔んでゐる夕焼
昨日から鴎にしたのは
どうも、間違っていた。
かもめを飛ばせたのに
<かもめおとし>を連想しそうな気がして来た。
かもめ には かもめ の句にしよう。
今日からに致します、よーこさん。
海へ行きたい わたし ですから。
7月11日(日)
ア・カペラの波状音包む夜の夏
身近に聴くコーラスはコンサートとは全く違う。
説明出来ないけれど、音が流れるのが見えそうな。
バックバンドも楽しげに演奏しているし
TIME FIVEのみんなの笑顔も、今夜は友達みたい。
ア・カペラは二曲だけ。
いいなと思った曲名が分らない‥‥
教えて、Taiさん、あとの方なんです。
次のCDにありますか?
7月12日(月) −銀座スウィングにて−
風が吹く暑中見舞のひとことに
萍が三角形となる水田
十年以上前に住んでいた家の隣には
今も同じように田圃がある。
その頃の、もうすこし早い季節の句を思い出した。
今朝から、その辺りへ行っていたから‥‥
あの家には、やはり凌霄の花が咲いていた。
7月19日(月)
アイスコーヒー残して初対面同志
ほんの30分くらい。
30代の男の人と女の人と、わたし。
おしゃべりが続いていたから、飲めなかったのかもしれない。
外は暑いけれど、お店の中はクーラーが効いていたからかも。
あ、お見合いじゃないんですよ!
7月22日(木)−持っている歳時記には、「アイスティー」だけですが−
青空に笹の葉揺れる昼寝覚
わたしのお昼寝の定位置は、大きいテレビの前のソファ。
32度から33度になった今日は‥‥
涼しい風に吹かれたくて、窓のそばのカーペット。
眠るつもりはなかったんですよ。
低い所から見上げると、景色が違うんですね!
それと、自然の風のここち良さ!
7月24日(土)
朝風とともに入り来る蝉時雨
今朝作った句ではないけれど、例年まったく同じことだから。
その時にもう一句作っている。
こちらの方が、蝉の声のヴォリュームが出ていると思う。
今日はそのあと、蝉よりも烈しい音で、雨が降り始めた。
7月27日(火)
夏桃を左手に載せ二三秒
今宵いな明夜ひらかむ月下美人
室内ではなんとなく元気がないようで、外へ出した鉢に
たった一つだけ蕾がついた。
今朝見たら、開花寸前という様子。
一輪しか咲かないから、より大切に眺めてやりたい。
あら、それにしても‥‥
「秋」を見てみると、 戴いた昨年は9月の末に咲いたのに?
8月1日(日)
夕空を夏うぐひすの声澄みて
儚くも誇らかに白き月下美人
揚花火重なる色と消ゆる色
川を 見下ろして、人波の橋も見下ろして
その向うの桟敷も見下ろして。
西側の窓を開ければ、打ち揚げ花火は眼の高さに開く。
家で遠花火がいい、と思いながら、やはり今年も来ているわたし。
ここ数年のミュージカル花火が、お気に入り!
夏なのに何故か「くるみ割り人形」で。
8月7日(土)