季 節 の 中 で









春立ぬ白き世界のこの朝



華やぎか嘆きか入試語る声



早春の城を浮ばせ茜空



チョコレート売場はづれて桜餅



希みひとつ叶ひし夜は春の雪



目刺し焼く傍に軽口飛び交へり



鰆漁の話ともなり刺身より



春雨や靴磨くやや念入りに



暫くの話題提供ほたるいか



春の霜のんびり背を伸ばす猫



Cat stretches
in the morning sunlight
safe from spring frost.



色ごとに並ぶ花屋の春の花



三月の朝影に浮き家々は



洋皿の藍に合ふやも鶯菜



貝雛を眺めて女二人の宴



朧夜や記念誌の或る一ページ



お花見の前に売出す団子かな



遠山をしたがへ城は夕霞む



In the mists of the spring sunset
the castle, like a General commands the mountains.



桜貝ひとつ朱塗の函の中



独活の香は指に残りてキーを打ち



十才の少女すらりと沈丁花



さくらもち橋のたもとや嵐山



朧なる祇園小路のくぐり戸よ



連翹やちらちらと黄の纏はれる



ほのぼのと城は向ふに初桜



小鉢にも皿にも枝垂ざくらの絵



花人をそのままにして離りゆく



ルノワールの少女の髪よ春の虹



行列の中には姫も花吹雪



なわすれそとのくさぐさをいとほしむ



今日もまたお帰りなさいとチューリップ



いかなごや網で焙りしことなどを



春愁や右手の甲で採血し



かたばみを撮りし少年はらばひて



たんぽぽの野に立つ乙女嫁ぎ行く



電話切りてより春愁にひたりをり



満天星の白き花鈴ピアニシモ



春涛の烈しくもまたやさしくも



陽炎の向ふ煉瓦へ続く門



In his father's arms,
he reaches to touch the sky of Wisteria.



CDを手に夏近き街へ出る




風車持たせてみたき女の子

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